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鎖国下の数学

2023-03-12 15:07:32 | 歴史

以前に見逃された幼児が足利家を存続させた話をしました。幼名は永寿王、後に古河公方となる足利成氏ですが彼の兄たちは自害もしくは足利義教によって処刑されています。持氏の遺児を担ぎ上げたのが結城氏朝で敗戦の結果、結城氏は滅亡に向かうかに見えましたが成氏によって再興することが許されます。戦国末期には徳川家康の次男坊 秀康が養子に入って越前松平氏につながっていきます。一方で結城氏の一族で関氏に養子に入った人物が数学の天才で名を関孝和といいます。

生まれたのは寛永年間ですから島原の乱を前後するころ、戦国の完全なる終焉を見据えたころ合いと言えます。活躍したのは綱吉の時代、後の6代将軍家宣となる甲州藩主に仕えそのまま将軍となった家宣に仕えました。同じ6代将軍でも恐怖政治を敷いた室町将軍義教と違ってなかなか出来た人物で、反対意見の排除をしない、新井白石を師として尊敬し師弟の礼儀を将軍になった後も守るけど彼が気に入らない人物を新井白石がいくら排除しようとしても家宣は聞き入れなかったと言います。7代将軍となると室町も江戸もなぜかお子様将軍、ただ最近の研究では室町7代義勝も江戸7代家継も幼少ではあるけど言動はしっかりしていたんじゃないかと言われています。義勝は武家の棟梁たる将軍になるべく帝王学を授けられていて同母弟で公家に育てられて文化人としては一流だけど武家の棟梁としては三流以下で応仁の乱を引き起こした義政とは育ち方が違っていたと言います。一方で家継も家宣の実子で家宣の意向を受けて育っていたなら言動はしっかりしていたんじゃないかと思えます。ただし家宣の難点と言えば尾張宗春にも共通するんですが政治哲学・倫理・価値観が現代人の思考パターンに近く江戸時代の将軍や領主としては不向きだったのかもしれません。ただ、関孝和が家宣に気に入られたなら優れた人物じゃないかと反射的に思ってしまうところもあります。

和算で検索して画像を見るとパズルに近いものがあります。数学の本質がパズルだってことに近世の日本人は分かっていた。数学の授業では公式の暗記や繰り返し演習が主体で考えさせる授業に巡り合いにくいんですが、和算の時代は数学は考えることや解き方の分からないことに自分で答えを出すことにちゃんと価値を見出していたわけです。おおよそ数学で繰り返し演習が必要なのは基本的なことを理解するためであって難問の繰り返し演習は害悪でしかないと思いますから。明治以降に洋算にとってかわられるのは実用性と記号を使うことで少ないスペースに多くの情報を乗せられるってのがあるんでしょう。表意文字を使う私たちにしてみれば少ない漢字で意味を伝えるのは可能で、表音文字を使う人々にしてみれば同じ演算を多くの文字列で表さなければならない。だからこそライプニッツは数学の授業で必ず嫌悪感の対象にされる∑や∫など数学独特の表意文字を作り出していった。しかも私たちのようにもともと表意文字を使って文章を表す側より少ない文字列で多くの算術上の情報を盛り込めた。これも現代人が数学を使って技術上の計算を行うときに利便性がいいので洋算に頼る原因となっていくわけです。

さてさて、関孝和には関数の概念がなかったので微積分学をニュートンやライプニッツより早く見出したとは言えないにしても、面積・体積・経路の長さを細かい要素に分け足し合わせるってのは積分法の本質自体はつかんでいたといえるんじゃないかと思えます。ただ、関数という概念をライプニッツは分かっていたから積分法は微分法の逆の手法と気づけたわけで、多くの曲線に囲まれた面積や体積を厳密に一般化された手法で導出できた。この点では微積分学の太祖はニュートンやライプニッツにあると言えますし、後継者による理論の発達という点では圧倒的に現代数学は彼らの系譜をひいているものと言って差し支えありません。

さらには幕末に近い頃になれば複素平面上の積分論が発達して、産業革命で動力を人力以外で容易に得られた次は自動的に制御する必要に駆られるわけですがその基本理論となる複素関数のモードの計算に必要なラプラスの順逆変換の数学が整ってきて、寛永年間に西洋との接触を限定しつつも西洋に言われるほどは遜色のない文明を発達させてきた江戸期の日本の文明は嘉永年間には西洋に一気に先を走られることになります。足利義教の恐怖政治を潜り抜けた家系から和算の大家が現れたのに対し、複素関数の積分法はフランス革命の恐怖政治を潜り抜けた家系から現れた天才によって大幅な発達を見せます。彼の名はオーギュスタン・コーシー、日本でいえばもう幕末期に近い頃に活躍した人物です。

幕末期にあたるころの洋算の話をする前に、お次は微分・積分・複素関数のちょぼっとしたトリビアに触れておくことにしましょう。

 

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