繁栄の中で危機は進行する

ローマ帝国がビザンツ帝国へと姿を変えていくに当たって、何故そうなったかといえばローマ帝国が危機に陥ったからといっていいであろう。
その根源を遡れば、ローマが最も繁栄した時代、すなわちフラウィウス朝最後の皇帝ドミティアヌスの暗殺からコンモドゥスの即位まで続く５賢帝時代に求められる。この繁栄を謳歌した時代に領土は拡張しつくし、ローマ市民は周囲からのアガリで日々の豊かな生活を享受できた。しかし、簒奪と頽廃に溺れるものは必ず実質的に生産・軍事に携わるものたちに凌駕される。
そんな中でローマが繁栄できたのは帝国に勢いがあったことと、皇帝が賢明であったからに他ならない。５賢帝最後の皇帝マルクス＝アウレリウス帝の時代は紛争が絶えず、皇帝は常に戦場にある状態であった。それでも彼が賢明であったから危機が目立って表面化することはなかった。
やがてマルクス＝アウレリウス帝が死去し、彼の愚かな実子コンモドゥスが即位すると危機は一気に表面化する。
実質面で国防を担ってきた軍人達は思い思いに皇帝を擁立し、気に入らなければ暗殺される軍人皇帝時代に突入する。
百年にわたる混乱に終止符を打ったのはかつてローマ人に征服されたイリュリア人（現アルバニア人）皇帝ディオクレティアヌスであった。即位当初は誰もが今までのイリュリア人皇帝同様じきに暗殺されると踏んでいた。
しかし、彼は今までの皇帝は市民の代表者という立場から近づきがたい国家の主人へと皇帝のあり方を変えることで帝国の混乱に一旦終止符を打った。
こうしてローマ帝国とビザンツ帝国の間にある決定的な違いの一つ、専制君主制が実現したのである。ビザンツ帝国の特徴といえば専制君主制とキリスト教であるが、国家の統一に当たってキリスト教がうっとおしくって仕方が無かったディオクレティアヌスは迫害を徹底した。
ビザンツ帝国のもう一つの柱、国教としてのキリスト教はディオクレティアヌス帝の死後の混乱期を勝ちあがったコンスタンティヌス帝の時代を待たねばなるまい。