昌栄薬品
渡辺武著 わかりやすい漢方薬
第四章 漢方による心身の健康法
1 病気を予防する漢方
漢方はコンピューターの始祖である
漢方では病名で薬は決められません。
漢方薬は身体を正常化し、平にかえす薬です。
だから身体のひずみをチェックすれば、薬剤は自然に決まってきます。
まず、健康のチェックは「健康十二則」の破綻である〝訴え〟を元にして、どこが悪いか、詳細に健康をチェックする箇条をつくり、そのひずみがどこにどういう状態で出ているかによって、健康状態をつかむことができます。
病人にとっては病名を診断するより、どこがどう悪いかを知ることが先決です。
これで気剤が必要か、
水剤か、
血剤か、
あるいはまた気・水剤か、
気・血剤か、
血・水剤か、
それとも気・血・水剤がともに必要かがわかってきます。
しかしこれだけでは、病名薬にちょっと毛が生えたようなものです。
次に、いわゆるその人の体質―汗かきか無汗型か、肥満体かやせ型か、便秘症か下痢症か、脉は浮いているか沈んでいるかなど、その病気の時点での陰陽虚実をはっきり分類します。
そして上薬にすべきか中薬にすべきかがわかって、寒熱温涼平の五つの薬剤を決めておけば、患者の正常化のための処方は決まってきます。
漢方薬に病名診断はいりませんが、薬剤を処方するまでのチェックはきびしいのです。
患者に自然に合う薬剤になるようになっているのです。
現在の新薬の場合は、病名薬で大ざっぱに決められていきます。
熱を下げるには、極端に下がっても下げればいいという考え方が、薬学のルールになっています。
だから、副作用が起ったりすると、問題の処理に細かい配慮ができないわけです。
間違いがない以上は治したという立場にあるわけです。
そうした点では、現代医学というのは、分化されすぎて、内科、外科、眼科、泌尿器科といったように、お医者さんが専門家になりすぎています。
針の穴のようなところはよく研究されていますが、全体がつかみきれないために、病人のサイクルをくずしたり、人間の身体のバランスという点がわからなくなってきます。
専門医師ですから、研究も治療も局部的になり、単なる部分的な修理工になってしまいます。
修理した部分がよくなれば、入院患者は退院ということになります。
たとえば、胃を手術した場合、胃が癒合すれば、もう大丈夫だからと退院させられてしまいます。
胃を手術したことによる他の臓器の問題、関連したいろいろな障害については、全く病気として認めません。
専門外のことについてもタッチしません。
元気づけて帰すことになります。
ところが、後にこの後遺症や副作用による問題が新しい病気をつくることになってきます。
患者がお医者さんに対して不安、不信を抱くのは、この新しい病気の問題ということになるのです。
漢方薬の場合は、あくまでも身体の正常化が目標であり、そのひずみのチェック、体質や陰陽虚実と、薬剤を処方するきびしい条件をくぐって薬が決められます。
つまり、ちゃんとしたチェックさえすれば、薬剤による副作用や後遺症は起らないように配慮されています。
漢方は病人の情報を細かく薬剤に反映するようになっています。
そうした意味では漢方薬は、二千数百年前から薬剤を人体実験して、その情報を累積した医学といえます。
いま流にいえば、条件やチェックのプログラムによって、薬剤の効き目を細かく決めてきたコンピューターの始祖、実現者であったといえます。
近代科学の立場では、コンピューターで病名まではほぼ決められますが、それを正常化する治療薬の決定については無縁で、もう一つ違ったコンピューターにかけないと、適薬が判定できませんが、それも病名薬と作用薬といった二つだけの貧困な薬剤判定法では、的確な薬は決められない宿命にあります。
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