KAWAYU EMC スタッフのひとコマ(弟子屈町・川湯温泉・阿寒摩周国立公園・屈斜路湖・摩周湖など)

川湯エコミュージアムセンターの職員が写す日々の季節の移ろい、出来事をどうぞ Kawayu EMC staff diary

オオウバユリは二女

2013-07-25 08:57:59 | アイヌつれづれ(about Ainu)

 

5月中旬

 

6月上旬

 

6月下旬

7月上旬 

7月中旬 

 

 

そして今-。

↑ 26個も付いてます(驚!)

 

道路脇で、

日を追うごとに、どんどん開く花を増やしている大型の植物は

オオウバユリです。

 

アイヌの人たちは、

このオオウバユリの根(鱗茎)のことをアイヌ語で【トゥレプ】と言い、

デンプンを採ったり、

その過程で生じる滓を固めて保存食となる団子を作ったりと、

余すことなく利用しました。

 

アイヌの人たちの暮らしぶりを描いた、アイヌ風俗絵巻にもオオウバユリを採取しているようすが

残されています。

 

このオオウバユリにまつわるフチ(アイヌ語で「おばあさん」のこと)から聞いた昔語りで、

とくに好きな一話があります。

 

少々(?)長くなるかもしれませんが、

よろしければお付き合いくださいm(_ _)m

 

あるコタン(アイヌ語で「村」のこと)に、貧しい暮らしをしている両親と娘がいました。

娘は両親に食べさせようと、山菜を採りに山に入るのですが、

いつも先に入った意地悪な女の人たちが採り尽くしてしまうので、

なかなか手に入らずにいました。

 

ある日のこと。

娘は、「村の有力者の奥さんが急病で今にも死にそうだ」という話を耳にしました。

そのことを両親に告げたところ、ほんの少しの山菜しかないがそれを持ってお見舞いに行くように、

と言われました。

 

その家に着くと、先に来ていた意地悪な女の人たちに、

「貧乏人の娘が何をしに来た」と言われてしまい、部屋の隅で小さくなっていました。

すると、それを見たその家の主人が「遠慮しないで中に入りなさい」と招き入れてくれました。

 

中に入ると、

娘の耳に囲炉裏の火のカムイ(アイヌ語で「神」のこと)や自在鉤のカムイ、小鍋のカムイが話している声が聞こえてきました。

小鍋のカムイが言うには、「この家の女は私(小鍋)の耳が欠けたら外に放り出して、

犬や猫の食器にした。山菜を採りに行けば必要以上に採り尽くして結局腐らせている。

これを天のカムイが見て怒り、懲らしめるために病気にした」ということでした。

 

その話を聞いた娘は急に立ち上がり、

家に集まっていた意地悪な女たちに「袋を4つ用意しなさい!」と命令して山に入りました。

 

意地悪な女たちは驚き、さんざん文句を言いながらついていきましたが、

どんどん山の奥へ入っていくので息切れして引き返してしまいました。

 

娘が一人だけさらに奥へ進んでいくと、

やがてきれいな小さな家がありました。

あいさつをして中に入ると四人の美しい女性が座っていました。

 

そして、一人の女性が口を開き、

「私たちはカムイの国から地上に降ろされた山菜の四姉妹です。

この世界には人間ばかりが生きているのではありません。

ですから、独り占めしようとしたあの女を懲らしめたのです」と言いました。

 

娘は、4つの袋を遠くに放り投げながら、

祈りを捧げ、コタンに戻りました。

 

有力者の奥さんはすでに死に装束を着せられていましたが、

娘が囲炉裏のカムイに祈りを捧げると、息を吹き返しました。

 

その後、娘は立派な若者と結婚し、

両親を幸せにすることができました。

 

-そんな話です。

 

美しい山菜の四姉妹とは、

長女が雪解け後に一番早く食べることができるギョウジャニンニク。

二女は夏の初めに鱗茎を採るオオウバユリ。

三女が夏に葉を摘んで汁物にしたりするザゼンソウ、

四女は秋に根を食べるヤチブキ(エゾノリュウキンカ)。

 

いずれも、アイヌの人たちが

【ハル・イッケウ】(食糧の・背骨=食糧の中心になるもの、という意味)とも呼んだ主たる食べ物です。

 

この昔語りは、

・食べ物など、この人間界に存在するあらゆるものはカムイからの恵みである

⇒人間は“採らせていただいている”ので、娘が袋を放り投げたのは、

「次回、もしよければこの袋の中に入ってください」という意味が込められています。

放り投げるというと、ちょっと乱暴な行動に見えるかもしれませんが、

武器など、立ち向かうものは何も持っていませんよという意志表示でもあります。

 

・食べ物は、必要以上に採ってはならない

・食べ物を通じて、火や鍋などともつながっている=道具を大切にする

・カムイは、生活は貧乏でも心が美しい人に思いを託して人々に伝える

「そういったことを教えているんだよ」と言って、フチは話を締めくくりました。

 

アイヌの人たちには欠かせない食料であったオオウバユリですが、

今では食べることはもちろん、

加工の仕方を知っている人もだんだんいなくなってしまっているというのは残念なことです。

 

***

 

川湯エコミュージアムセンター  http://www6.marimo.or.jp/k_emc/