佐藤通雅さんの第九歌集 『 強霜(こはじも) 』 より
せはしければわれにとどまるひとはなしそれでよしこころおきなく過ぎゆけよひと
かなしみを負ひて生まれしでんでんの赤子が石のところまで来つ
身のほどを、身の丈をこそ生きなむと色加へゆくムラサキシキブ
この秋はミヤギノハギのしだりをの土にとどきて土をくすぐる
母のなきこと唐突に思はるる銀杏のしたの金の円心
顔の布はがされ覗かるるはこんな感じ仮眠を覚めててのひらでこする
うすべにのあかりのなかを降雪はななめに入りて闇へと吞まる
この世界のどこにも居場所はないのだらうかヒバリが空の高きに溺れる
子宮あらば雲の赤子をはらみたい風の丘に来て両手を広ぐ
爬虫類になりたくなって草に寝る そのときだ、陽がうらがえったのは (現代仮名)
竹藪の奥の暗きに討死の兵のごとくに枯竹はあり
これは死ののちの景らし長身のラクダが脚を炎やしつつ来る
眠り足るは生命の泉カーテンをひらいて全身に緑を受ける
ベコニアのこぼれ芽あれば鉢に移すこの冬共に耐へゆかんもの
弓の町へゆうるり曲がる忘れたい事でさへけふ懐かしくつて
発表のあてなく文を書き溜むるこのひと冬の贅といふべく
ひりひりと鳴く虫ありて息継ぎのほんのつかのま闇の匂ふも
せはしければわれにとどまるひとはなしそれでよしこころおきなく過ぎゆけよひと
かなしみを負ひて生まれしでんでんの赤子が石のところまで来つ
身のほどを、身の丈をこそ生きなむと色加へゆくムラサキシキブ
この秋はミヤギノハギのしだりをの土にとどきて土をくすぐる
母のなきこと唐突に思はるる銀杏のしたの金の円心
顔の布はがされ覗かるるはこんな感じ仮眠を覚めててのひらでこする
うすべにのあかりのなかを降雪はななめに入りて闇へと吞まる
この世界のどこにも居場所はないのだらうかヒバリが空の高きに溺れる
子宮あらば雲の赤子をはらみたい風の丘に来て両手を広ぐ
爬虫類になりたくなって草に寝る そのときだ、陽がうらがえったのは (現代仮名)
竹藪の奥の暗きに討死の兵のごとくに枯竹はあり
これは死ののちの景らし長身のラクダが脚を炎やしつつ来る
眠り足るは生命の泉カーテンをひらいて全身に緑を受ける
ベコニアのこぼれ芽あれば鉢に移すこの冬共に耐へゆかんもの
弓の町へゆうるり曲がる忘れたい事でさへけふ懐かしくつて
発表のあてなく文を書き溜むるこのひと冬の贅といふべく
ひりひりと鳴く虫ありて息継ぎのほんのつかのま闇の匂ふも