今日のうた

思いつくままに書いています

日本戦後史論 1

2015-06-15 16:03:31 | ⑤エッセーと物語
内田樹さんと白井聡さんの対話集『日本戦後史論』を読みました。
ちょうど私と娘の年齢に当たるお二人が、堂々とご自分の考えを語っていて
読んでいて清々しかったです。
内田さんはフランス現代思想が専門、白井さんは政治学・社会思想が専門。
お二人とも人間の心の奥底にあるものを言語化して戦後史を語っているので、
歴史家とは異なるスタンスで楽しめました。
これまで私がもやもやと感じていたものの正体が、この本を読んである程度は理解できました。
自分なりの答えを、この著書の中から引用させて頂きます。どなたの説かが分かるように
後ろのカッコにお名前を入れました。(敬称略)

(1)もやもやその1
 自国よりアメリカを優遇する安倍首相は、本当に愛国者なのだろうか。
 右翼と呼ばれる人たちは、どのような理由から安倍首相を支持しているのだろうか。

A:政治哲学の世界では、「愛国主義」(パトリオティズム)と「愛国心」
 (ナショナリズム)の2つがある。
 「愛国主義」(パトリオティズム)は、「自然なもの」、「下から」つまり、
 「民衆の生活から自然に湧き上がる郷土へ愛」がそのまま拡大したもの。善きもの。
 「愛国心」(ナショナリズム)は、「操作されたもの」、「上から」つまり、
 「国家のエリートが作為的につくり出し、民衆に押しつけることで彼らを
 時の政府に対して従順にさせ、他国民への傲慢(ごうまん)な優越感を
 植え付ける企(たくら)み」。悪しきもの。
  「愛国心は、ならず者の最後の避難場所である」という有名な警句がありますが、
  これは後者の意味での「愛国」を指したものと考えられます。
  愛国心をかさに着たならず者が、政府に従順でない人々を非国民・売国奴呼ばわりし、
  したい放題をするという光景は、洋の東西を問わず、数多く観察されるものです。(白井)

(政権と反対の意見を言うと、「反日」とか「アカ」と書かれているのをよく目にする。
 これでは何も言えない国になってしまう)

  戦後の日本人はついにナショナリズムを徹底できなかった。左翼はナショナリスティックに
  見られることを神経症的に忌避してきたし、右翼は中韓に対しては排外主義的に
  振る舞うけれど、アメリカにおもねるというダブルスタンダードを採用して平然と
  している。だいたい、外国の軍隊が国内に永続駐留している事態を右翼が別に
  「恥」だと思っていないということは日本以外の国では理解不可能でしょう。
  本来なら、右翼が反米・反基地闘争の先頭に立っているはずです。
  左翼が反米で、右翼は親米。…日本にはナショナリストがいないのです。
  外国軍の基地が国内に半永久的に存在することを「変だ」と感じない人たちを
  僕はナショナリストと呼ぶことはできません。(内田)
  
(2)もやもやその2
 なぜ日本は太平洋戦争の総括をしたがらないのか。また、戦時中は「鬼畜米英」と
 憎んでいたアメリカに対し、戦後はなぜこうも急接近していったのか。

A:戦争を知っている第一世代、戦中派は敗戦経験の本質を隠蔽してきた。
  これは確信犯的にやってきたことだと思います。一つにはあまりにみじめな敗戦で
  あったので、その事実を受け止め切れなかった。
  「なぜ負けた?」という問いは、どこかで「次は勝つ」というマインドと接合します。
  「次はアメリカに勝つ」ためにという真剣さがなければ「なぜアメリカに負けたか」という
  問題は前景化しない。でも、戦中派には「次は勝つ」という気分は
  まったくありませんでした。
  ナショナリストたちにさえまったくなかった。だって、右翼の巨魁(きょかい)たち
  【※註①】は次々とCIAのエージェントに採用されてしまったんですから。
  「負けてよかった」という楽観的なマインドと、「なぜ負けたか」を追求する
  主体がどこにもいなかったという現実の帰結として、敗戦経験を正面からクール
  かつリアルに総括するという事業が70年にわたってネグレクトされてきた。…
  でも、いくら「なかったこと」にしても、現に「あるもの」はそこにあり続ける。
  日本は敗戦の経験を正面から引き受けることを怠ったために、アメリカの従属国で
  ありながら、主権国家のようにふるまっているという自己欺瞞(ぎまん)から
  抜け出せないでいる。(内田)
  
  EUの要をなす同盟国ドイツとフランスが過去150年の間に3度(
  普仏戦争、第一次、第二次大戦)も凄惨な殺し合いをしてきたことを思い出してほしい。
  イギリスは「アメリカに勝てない」と思って従属的に同盟関係を結んだわけではないし、
  ドイツは「フランスに勝てない」と思って従属的に同盟関係を結んだわけでは
  ありません。それぞれ「次は勝つ」方途を探しているうちに、
  「同盟関係を結ぶ方が戦争するより国益に資す」という政策判断を下したから
  そうしたのです。
  だから、この同盟関係は堅牢なのです。日米同盟はそれに比べるとはるかに脆弱です。
  「日米同盟以外はあり得ない」と言い募っている人たちはその外交関係が日本が
  従属国であるから「しかたなく」選択されたものであって、主体的に選び取られた
  ものではないということから目を逸らしている。主体的に選び取られていない
  外交関係にどれほどの信頼が置けるか、少し考えてほしいと思います。
  「次はアメリカに勝つ」ということを国の根本に据えた上での同盟関係であれば、
  アメリカとの同盟関係はずっと深みのあるものになっていたでしょうし、
  戦争経験の総括も、隣国に対する戦争責任の引き受け方も筋目の通ったものに
  なっていたでしょう。(内田)

  2013年に広島で行われた講演会で、アメリカの映画監督のオリバー・ストーンが
  「日本はアメリカの衛星国(satellite state)であり、従属国(client state)である」
  と断言しました。日本の政治家はかつていかなる大義名分を代表したこともないとも
  言い切りました。アメリカの政策に追随する以外に、国際社会に向けて発信する
  いかなる構想も持っていない国だ、と。でもこのスピーチを日本の新聞は
  どこも報道しませんでした。
  もし新聞社が「それは日本に対する侮辱だ」と思うなら、記事として取り上げてきちんと
  反論すべきでした。でも。無視した。
  そんな話は「なかったこと」にしようとした。世界中の国が日本はアメリカの
  属国だと思っていて、日本だけが自分は主権国家だと思っている。
  このような奇妙なことになったのは、すべて70年前の敗戦の総括が
  できていないことに起因するだろうと僕は思います。(内田)

  第二次大戦では中国もソ連も戦勝国で、日本は敗戦国なんだけれども、どうも負けたように
  見えない。圧倒的にわれわれの方が良い暮らしをしているという状態ができたからです。
  さらに状況が大きく変わったのはソ連の崩壊でした。ソ連が崩壊してしまうと同時に、
  日本はアメリカから見て、助けてあげるべきパートナーから収奪の対象に変わった。
  アメリカは基本的にアメリカの国益しか考えないのですから、
  こうした変化は当然のことです。(白井)

  戦死者300万人のうち200万人は最後の1年で死んでいます。国体護持という言葉は
  何やら荘重な響きがありますが、内実は、支配層の自己保身を言い換えただけに
  すぎません。
  日本の支配層は、自分たちの保身のために自国民、それも前途ある若者を中心に200万人
  も見殺しにした。今回のTPPでも同じことをやるでしょう。彼らは自己保身のために、
  日本の有形無形の富を、最後の一片に至るまで切り売りするつもりでしょう。(白井)

【註①】
岸信介も、賀屋興宣も、正力松太郎もCIAの協力者リストに名前があがっている。
アメリカは公文書を開示してくれますから、日本人自身がどれほど隠蔽しようとしても、
外から情報が漏れてきてしまう。岸と正力がCIAのエージェントだったということを知れば、安倍晋三と読売新聞がつるんでいるという政治的絵図は1945年から変わっていない
ということがわかります。
特定秘密保護法を安倍政権が必死に制定しようとしたことの理由の1つは2007年に
アメリカの公文書が開示されて、自分の政治的出自が明らかにされたことに対する
怒りがあるんじゃないですか。(白井)

岸信介がCIAのためにどういう活動をしていたかなんていうのは、安倍晋三がいる限り
日本では資料公開されないでしょう。
占領下の日本人がどうやってアメリカに協力していったのか。占領期における対米協力の
実相というのは僕たちが「対米従属を通じての対米自立」という戦後の国家戦略の適否を
仔細に分析しようとしたら避けて通ることのできない論件なんです。
それがわからないと現代日本のかたちの意味がわからない。
ぜひ心ある歴史学者にやってほしい仕事なんですけど。(内田)
2につづく

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日本戦後史論 2

2015-06-15 16:02:58 | ⑤エッセーと物語
(3)もやもやその3
 大企業や金持ち優遇政策ばかりが決められていき、弱者はどんどん保障を減らされていく。
 弱者への目配りのない政権は、どのような社会を目指しているのか。

A:最近の日本は「右傾化」したと言われますが、僕はむしろ「シンガポール化」と
  呼びたい。
  シンガポールが東アジアで最も成功した資本主義国家だと思われている。
  シンガポールは国是が「経済成長」ですから。統治システムも、教育も、
  メディアも、すべての社会制度が「経済成長に資するか否か」を基準に適否の判断が
  なされる。民主主義は経済成長のプラスにならないと判断されたので、
  建国以来一党独裁が続いています。国内治安法という法律があって、反政府的な
  人物は令状なしで逮捕拘禁することができる。労働組合は政府公認のものしかない。
  大学生は入学に際して「反政府的な意見を持っていない」ことを示す公的な証明書の
  提出を義務づけられている。
  反政府的なメディアは存在しない。リー・クアン・ユー一家が首相ポストを世襲し、
  国有企業を支配している。きわめて効率的なトップダウン・システムです。
  だから「世界で一番ビジネスがしやすい国」だと言われる。
  そのシンガポールをモデルにして日本の制度も全部作り替えればいい
  じゃないかと思っている人たちが現在の安倍政権の熱烈な支持層を形成しています。
  特定秘密保護法とか、集団的自衛権の閣議決定とか、自民党改憲案の「非常事態」の
  適用による独裁制の合法化とか、あるいは学校教育法改訂による学校の
  「株式会社化」などもすべて「日本のシンガポール化」の流れだと言ってよいでしょう。
  だから、彼らを「右傾化している」と呼ぶのは見当違いなんです。
  彼らは別に戦前の大日本帝国のような日本を作りたいんじゃない。
  シンガポールみたいにしたいだけなんです。金儲けだけに特化した社会の仕組みに
  してほしいので、民主主義が邪魔なだけなんです。(内田)

(そうだったのか!次から次へと切れ目なく日本を変えていく、そのモデルが
 シンガポールだったとは!カジノ構想も然(しか)り。
 20年前に私はシンガポールに何度か行きました。その時の感想は、
 「規則でがんじがらめの国」でした。
 たとえば地下鉄にはこう表示されています。「緊急停止させた場合は罰金いくら。
 たとえそれが故意ではなく間違いであっても」。トイレに入れば「流さなかったら
 罰金いくら」。車を増やさないという政策から、車の購入にはべらぼうな税金をかける。
 当時でホンダのアコードが800万円。
 中心街に車を多く乗り入れさせないために、今日はナンバーが奇数の車だけを許可する。
 明日は偶数ナンバーのみ許可。ゴミの分別はなく、生ごみも紙もプラスティックも
 ビン・空き缶もすべて一緒くたにして海に埋め、国土を増やしていく。
 これは聞いた話ですが、誰かが故意に私の車の中に麻薬を置いた場合でも、
 私は死刑になるとか。
 すべてノー・イクスキュースの国なのです。淡路島くらいの小さな国に、
 多民族がひしめきあって住んでいるので、いちいち言い訳を聞いていたら
 切りがないのかなと、当時は思いました)
 
  シンガポールって資源が何もないんですよ。食糧もエネルギーも水さえ自給
  できないんです。だからシンガポールにとって生き延びるためには
  「まず金」というのは正しい選択なんです。
  でも、日本には世界的に見ても有数の豊かな自然がある。森林率68%というのは
  先進国では世界レベルの数字です。温帯モンスーンの湿潤で肥沃(ひよく)な
  農地が列島全体に拡がっている。水源は豊かだし、空気は澄んでいる。
  交通網も通信網も上下水道もライフラインは整備されている。
  だから、贅沢さえ言わなければ、今の手持ちの豊かな国民資源を丁寧に
  保持していくだけで、穏やかな国民生活を送ることができるんです。
  でも、それでは経済成長しない。だから、グローバリストたちは国民資源の
  ストックをゼロ査定して、「フローが足りない」とがなり立てている。
  「このままでは国が滅びると」とまで言い立てている。
  実際に、彼らは国を滅ぼしたいのだと思います。
  日本を「シンガポール化」するためには、日本にあってシンガポールにないもの、
  つまりこの豊かな国民資源を破壊することが最も効率的な方法なんです。
  原発を次々に作って国土を汚染し、TPPで小規模自営農家の存立を不可能にするのは、
  国民が最後に逃れる先であるこの「山紫水明の山河」をそこにはもう戻ることが
  できない場所に変えるための政策であり、その限りでは、たしかに非常なまでに
  合理的な選択なんです。(内田)
  (フローは、経済諸量が一定期間内に変化または生起した大きさを示す概念)

(4)もやもやその4
 福島第一原子力発電所の事故を経験し、もう一度あのような事故が起きたら日本は終わりだと
 多くの国民が気づいている。では、なぜ再稼働という話になるのか。
 なぜ多くの国民は押し黙っているのか。
 
A:『永続敗戦論』を書いた動機の一つは東日本大震災でした。
  非常に大きな衝撃を受けました。
  それだけでなく、震災以降、この国の社会、国家のあり方がはっきり違ってきた。
  ずっと覆い隠していたものが、もはや覆い隠せなくなってしまったんです。
  壊れるべきものが壊れること自体は、悪いことではないのでしょう。しかし、そこから
  新しいよきものを作り出すプロセスは平坦なものではない。まずは、平穏な外観の下に
  隠されていたどす黒いものが噴出してきているわけです。
  原発事故そのものに関して言えば、戦後日本の建前が、ほんとうに建前にすぎなかった
  ことのあらゆる証拠を突きつけられた。その建前の代表は、平和主義と民主主義です。
  どちらの価値も、この国の支配権力が本気で追及したことなど一度もなかったことが
  明らかになりました。覆い隠されていた暗いもの、薄々感づいてはいたものの見たくない
  ので見ないで済ませてきたものが、一気に表に出てきた。(白井)

  ある程度システムが機能している中での失政はきびしく批判されるけれど、システムが瓦解
  してしまったら誰も責任を問わない。東電だってそうでしょう。福島原発事故が
  もっとずっと規模の小さなもので、被害も少なければ、「徹底的な調査を行なって、
  責任者をきびしく処断する」というようなことを政府が言い出したかもしれない。
  でも、ここまで話が大きくなると徹底糾明で政府部内からもぞろぞろと
  連座するものが出てくる。それはできない。
  安倍首相の「戦後レジームからの脱却」路線はどこか破局願望によって駆動されている
  という印象を僕は抱いています。
  安倍首相のあの強硬なイデオロギー外皮は作り物だと僕は思っています。あれは外付けの
  甲冑(かっちゅう)なんです。本人だって重くて苦しい。重くて、冷たくて、痛い。
  でも自分ではおろせない。誰かにおろしてくれと頼むこともできない。…
  街ごと潰れてしまえば、自分の無能や非力は咎められない。だからシステムごと壊れる
  ような政策を選択する。すると、どういうわけかそれが受ける。日本国民も実は
  無意識のうちに「こんな国、いっぺん潰れてしまえばいいのだ」という突き放した
  気持ちを祖国に対して持っているからです。だから、安倍さんに共感しちゃうんです。
  (内田)

  実際に原発事故を徹底的に精査して、精密に被害評価をして、二度と事故が
  起こらないようにしましょうということになったら、もう事故が起きなくなっちゃう
  から、それは困るわけです。
  巨大な事故があったけれども、あれは何でもなかったということにしてぐちゃぐちゃに
  ごまかすのは、別に東電の利益を確保したいとか、関連官庁の監督責任を
  うやむやにすることが目的であるわけじゃないんです。事故をうやむやにすると、
  これからあとさらに巨大な事故が起こる
  リスクが高まる。それを待望しているんです。あんな原発事故があって、どれほどの国富が
  失われたのか計算も立たないうちに、「電力コストが安く上がるから」という理由でまた
  原発再稼働を決めるなんていうのは、コストのことをほんとうに考えていたら
  出てくるはずのない結論なんです。別に彼らは原発だと火力より金が節約
  できるからというようなちまちました理由で原発を再稼働させたいわけじゃない。
  原発を稼働させると原発事故のリスクが高まって、次に事故があったら、
  日本はもう人間が住めなくなるかもしれない。それを期待している
  から再稼働に前のめりなんです。無意識のうちに破局を求めている。
  短期的には経済合理性にかなうように見えるけど、長期的には不合理な選択を
  平然と選ぶのは、その不合理な選択こそが彼らの本当の欲望しているものだからです。
  (内田)

  国民のほとんどが脱原発派であるわけです。だけれども、
  「どっちかといえば、やめた方いい」程度の意志で、やめられるはずがない。
  それがどうやらわかっていないところが、日本国民のだめなところです。
  国家がこれまであらゆる反対意見を踏み潰して推進してきた政策なんだから、
  これを政策転換させるのはとてつもなく大変なことで、
  「どっちかといったらやめた方がいいと思います」程度の意見というのは、
  事実上の推進と同じなんです。(白井)
  3につづく

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日本戦後史論 3

2015-06-15 16:02:21 | ⑤エッセーと物語
(5)もやもやその5
 安倍政権が推し進める安全保障関連法案が通れば、集団的自衛権の行使により自衛隊員が
 他国の戦争に駆り出され、殺されるばかりでなく殺すこともあり得る。
 それにより相手国から敵国と見なされ、国内・国外を問わず、日本人がテロの標的にされる
 危険性が増すだろう。
 いくら歯止めが議論されても、いったん集団的自衛権の行使が認められて、
 アメリカから要請があれば、断ることが難しいことは火を見るより明らかだ。
 こういうことが分かっているのに、なぜ国民は安倍政権を支持するのか。

A:戦後日本の70年間の国家戦略の基本は「対米従属を通じての対米自立」なんです。
  アメリカにべったりはりついて、あらゆる政策を支持して、利害の一致を強調して、すべて
  の重要政策をアメリカに決定してもらって、その従属的態度を徹底させたことの報奨として
  「アメリカ抜きでなんでも決められる国」になるというロードマップの合理性を理解して
  いるのは、世界でも日本人だけじゃないですか。(内田)

  戦後レジームからの脱却といったとき、素直にその言葉を受け取るなら、
  対米自立を果たすということです。ところが安倍さんは戦後レジームからの
  脱却という一方で対米従属を強めている。特に安全保障をめぐって
  解釈改憲によって集団的自衛権の行使を認め、アメリカにくっついて
  戦争をしに行けるようにした。
  しかし、ここに来て、ほんとうに突き抜けてきつつある、歴史修正主義に関して
  アメリカからはっきりと嫌悪感を示されているにもかかわらず、
  ほんとうには撤回しようとしない。
  今後も歴史修正主義の言動を出したり引っ込めたりするでしょう。これは自立というよりも
  孤立といった方がふさわしい。全方位を敵にして、どこにも味方がいない状態です。
  もう北朝鮮と仲良くするぐらいしか、手がないんじゃないですか。だんだん国の在り方も
  似てきたし。たしかにこれは破滅したいんだと考えると、つじつまが合いますね。(白井)

  戦後一貫して偽装してきたわけです。だから、もういい加減、仮面を剥(は)ぎ取って、
  本音を言いたいということはあると思うんですね。「アメリカなんか怖くない」って。
  靖国に行く連中はその「禁句」をどこかで言いたくてしかたがないんでしょう。(内田)

  彼らがおそらく無意識のうちに待望しているシナリオは、尖閣をめぐって衝突が起こって、
  日本人みんなが逆上するというケースです。「さあ、中国と一戦交えるぞ!」という話に
  なって、国民が狂躁(きょうそう)的な興奮状態になる。もちろん日本国民は当然日米安保
  条約第5条が適用されて米軍が出動し、自衛隊とともに人民解放軍と戦ってくれるもの
  だと期待する。けれども、もちろん米軍は出てきません。何が悲しくてあんな岩礁1つの
  ためにアメリカの兵士が死ななければいけないのか理由がありませんから。でも日本人は
  怒りますよ。「尖閣は安保条約の適用範囲だと前に言ったじゃないか!」と食言を咎める。
  でも、アメリカはそういうふうに言っておけば中国が軍事的進出を控えるだろうと思って、
  ハッタリで言っただけで、本気で適用する気なんかはじめからない。だから、「むろん
  お約束通り、安保条約は発動する気持ちは十分にあるが、いざ対中国戦争という
  ことになると議会の議決がいる。
  中国市場に依存する企業や中国に生産拠点のある企業には『みなさんの会社の収益が
  激減し、在外資産も消えますけど、それでいいのですか?』とお訊ねしなけれ 
  ばならない。国内世論を『戦争してもいい』という方向にとりまとめるためには
  だいぶ時間が かかるんです」と理屈をつけて、出兵をずるずる先送りにする。
  日本人は怒り出す。
  「なんでアメリカは軍を出さないんだ。70年間も基地を提供し、『思いやり予算』で
  さんざんムダ飯を食わせてやったのに、あげくがこの仕打ちか!」ということになります。
  アメリカがいちばん恐れているのはそのシナリオです。(内田)

  日中間で軍事的フリクションが生じた場合にも米軍は出ない。アメリカには中国と戦争して
  得られるメリットなんか何もありませんから。でもアメリカが対中宣戦布告をしなければ、
  次は日本国内の世論が一夜にして「反米」に染まってしまう。戦後70年間「対米従属を
  通じての対米自立」路線を無思慮に歩んできたことの無意味さに
  国民規模で気づいてしまう。
  そのときこそ久しく抑圧され隠蔽(いんぺい)されてきた日本人の反米感情が一気に
  噴出する。「安保条約即時廃棄、駐留米軍基地即時撤去、自主核武装」といった威勢の
  良いスローガンを喚(わめ)き散らす人たちが出てくる。日米安保が空語だったということ
  がひとたび露呈してしまったら、このスローガンに反論することはもう不可能です。
  こうなったら世界中全部敵だ、中国でも韓国でも北朝鮮でもアメリカでも、どこからでも
  かかって来い。こうなったらみんなまとめて戦争だ、というような常軌を逸した言葉に
  国民たちが熱狂し始める。…(内田)
  (フリクションは摩擦・いさかいのこと)

  私は彼をそこまで根性があるとは思えないですよね。ほんとうに尖閣で
  ドンパチが起こって、
  自衛隊が出て交戦状態に入ったとき、それを首相が記者会見で発表する。安倍さんはそんな
  感じで将軍気分を味わいたいだけなんじゃないか。つまり幼児性です。そんな事態が生じ
  たら、中長期的にどうなるのかという問題は、彼の知性の身の丈には余る事柄でしょうし。
  …自衛隊が戦争に出ていって、死人まで出るという状態になったら、もう事実として
  憲法九条は完全に機能していないことになる。既成事実ができるわけですね。
  憲法九条はもう完全に守られていないという状態ができる。
  となると、改憲のハードルは著しく低くなる。
  既成事実を認めるだけのことになりますから。こういう展開がこの解釈改憲、集団的自衛権
  行使容認の狙いであり、道筋なんじゃないかと思います。(白井)

  …「平和主義」の内容は、「安全保障政策」とイコールと見ていい。
  「積極的安全保障政策」ということでしょう。「積極的」という言葉遣いは、
  これまでの日本の安全保障政策が「消極的」だったということを示唆していますよね。
  たしかに、安全保障政策は「積極的」なものと「消極的」なものに大別できる。
  後者は、できるだけ戦争から身を遠ざけることで
  国家の安全を保つという方針だといえます。憲法九条はこの方針のシンボルだといえる。
  これに対して前者は、「積極的」に敵を名指しして、その敵を攻撃したり無力化することに
  よって安全を保つということなのでしょう。で、第二次大戦後から今に至るまで、そういう
  積極策をずっと採り続けてきた国があります。アメリカですね。このアメリカの軍隊の動き
  に自衛隊の活動を一体化させることが、「積極的平和主義」ですよね。(白井)

  …ところが安倍さんでは対米従属と対米自立が交互に出てくる。普天間基地の問題で
  沖縄県知事の譲歩を取り付けた直後に靖国神社に参拝する。集団的自衛権の容認を閣議決定
  した直後に北朝鮮への経済制裁を解除する。つまり、「対米従属」のポーズを1つすると、
  その後に「アメリカが嫌がること」を1つする。彼の中ではそれで帳尻が合っているんだと
  思います。「アメリカが嫌がること」、靖国参拝とか北朝鮮との接近とかは、安倍さんに
  とっては「対米従属」の代償として許された彼なりの「成果」なんです。
  問題は、従属の代償に受け取るのは「アメリカが嫌がることをする権利」であって、日本の
  国益ではないということです。靖国参拝なんて、日本の国益と何の関係もない。
  参拝支持者たちが言うように私的宗教儀式にすぎない。「対米従属」は端的に
  日本の国益を削って、差し出すということです。本来なら国益と国益のトレードの
  レベルでの話であったものが、国益と私益のトレードの次元に移動している。
  だからこそ、葛藤がないんです。日本が何かを失って、その代わりに安倍晋三個人が
  何を得るかという構図ですから、葛藤のしようがない。僕が人格解離と
  いうのはそのような状態のことです。だからたしかに安倍さんには葛藤がない。(内田)

(「安保関連法案」を成立させるという「対米従属」をした後に、「70年談話」をアメリカが
 嫌がるものにしようとしているのだろうか。だから成立を急いでいるのだろうか)

  今やアメリカの東アジア戦略上の最大のリスクファクターは安倍晋三です。
  できたらこの人に早く辞めてほしい。でも、もっていき方を間違えると、
  日本の「北朝鮮化」という虎の尾を踏んでしまう。それに、日本国内の
  「忖度する下僚」たちは安倍さんが「対米従属による対米自立」路線の忠実な
  実行者なんだからホワイトハウスからも好かれているに違いないと思い込んでいる。
  (内田)

  やっぱり焦点は集団的自衛権の問題なんです。容認の閣議決定をしたことで、アメリカから
  見れば大いなる前進があった。あとは関連法案を通して、そこでもう
  安倍内閣はいらないという話になるんじゃないか。(白井)

  政権の政策はすべて先行きの失敗が見えているわけですよね。輸出は伸びないし、GDPも
  下がったし、成長戦略もないし。頼みは株価だけですから、株が急落したところで
  アベノミクスの命脈は尽きて支持率は株価といっしょに急落するでしょう。
  そうなれば、もう政権を支える具体的根拠はなくなりますから。ただし、
  ものが経済ですから、いつ何が起きるかわからない。(内田)

(アメリカの日本に対する期待度は、冷戦の時とは比べようもないくらい低くなっている。
 アメリカにこれだけ尽くしているのだから、いざとなったらアメリカも…と
 考えるのは違うのではないだろうか。アメリカの軍事を大幅に肩代わりさせられ、
 TPPでは大幅に譲歩させられた後、日本はどこに向かおうとするのだろうか)

    



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