今日のうた

思いつくままに書いています

小説 安楽死特区 (1)

2020-07-20 17:37:43 | ③好きな歌と句と詩とことばと
長尾和宏著『安楽死特区』を読む。
現在、大西氏の命の選別発言が問題になっているので、興味深く読んだ。
この小説は2020東京オリンピックが終わった後の、荒廃した
日本を描いている。あの人とおぼしき政治家が出てきたりして、
「さもありなん」とやけにリアルで、ぞっとする。
この小説が出版されたのは2019年12月、新型コロナウィルス感染前
なので、現実の日本の悲惨さはこれを上回ることになるかもしれない。
心に残った言葉を引用させて頂きます。

東京オリンピック以降、日本は本当に貧しくなった。
とうとう国会は、75歳以上の透析(とうせき)治療を一律に保険適応
から外すことを決議した。・・・
そんななかで末期がん患者のための光免疫療法が保険適応になったら、
透析患者はもっと怒るだろう。病気によって差別があってはならないと。
しかし、光免疫療法はそんなに効果があるのだろうか。今までもそんな
夢みたいなことを謳(うた)ってにわかに患者を期待させ、気がつけば
世間から忘れられている治療法はいくらでもあった。

平成が終わって早5年、世界的に医療技術は発展している。最近は中国や
インドからも瞠目(どうもく)するような研究発表が続いている。
そのせいか、中国人の日本への医療ツーリズムも最近は影を潜めつつある。
特にオリンピックの後、日本人の健康格差は中国を嗤(わら)えない状況に
ある。国民皆保険はかろうじて続いているが、企業年金制度はほぼ破綻状態、
若い世代において保険料未払いは増える一方である。新しい薬の開発が進ん
でも、なかなか保険適応にならないから市民の手には届かない。
先日の大手新聞社のアンケートでは、この国に希望を感じないと答える
20代が8割、百歳まで生きたくないと答えた70代以上も8割に上った
という。生涯未婚率も上がる一方であり、5年前は年間4万人といわれていた
孤独死は、今や10万人超と言われている。

副編集長の話
「まだここだけの話ということで〈安楽死特区〉構想についてざっくり
説明しますね。国家は、安楽死法案を通そうと目論んでいますよ。なぜなら、
社会保障費で国が潰れそうだからです。しかし国民皆保険はどうしても
維持したい。それならば、長生きしたくない人に早く死んでもらった
ほうがいい、そう考えています。
だから本格的に法制化を議論する前に、今現在、病気に苦しむ、もう
これ以上生きていたくないという人を若干名募集し、実験的に都内に
〈安楽死特区〉を作ろうと。

来年早々、特区構想は実現化します。そうでもしなきゃ、東京オリンピック
の財政的な失敗を未だ国も都も尻拭い出来ずにいる今、日本は社会保障費で
崩壊しかねない。これ以上は消費税も上げられないですし、だからといって
法人税を上げる気は、与党には毛頭ないですからね。国民皆保険制度撤廃
では選挙に勝てない。だから、あ・ん・ら・く・し。これが社会保障費
削減の本丸になったんですよ」            2につづく

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小説 安楽死特区 (2)

2020-07-20 17:32:17 | ③好きな歌と句と詩とことばと
そう、その時は反対でも、なんとなく決めてしまえば、反対したこと
自体を早々に忘れるのが人間というもの。この国でずっと膠着(こうちゃく)
状態のままだった安楽死法案だって、間もなくそうなるだろう。
平成の世であれだけ反対していた国会議員や医者たちは一体なんだったのだ?
もうすぐ日本人全員が首を傾げるはずだ。喉元過ぎれば熱さを忘れすぎる
のが、この国の最悪なところであり、いいところでもある。

(ニュースキャスターから政治の世界に移り、国会議員や都知事をやってきた
 池端貴子が安楽死第一号として名乗り出る)

一番最初に池端貴子が安楽死宣言をするとは・・・・・・。
ニュースキャスター時代から、いつも新しいことを言い出し、その都度
国民の関心を集め、拍手と称賛を浴びて生きてきた女。そして、ややこしい
事態とわかると不意にそこから梯子(はしご)を外すようにしてはずれ、
さらに新しいものに飛びつき、再び称賛を求める。    

政府は、多死社会、超高齢化社会からの脱却案を見い出せずにいるが、
我が国の社会保障問題、さらには終末期医療を巡るさまざまな問題に
対しての解決策の一案として、東京オリンピック以降活気を失くした
中央区銀座のホテル及び、築地再開発地区にありゴーストタウンと
化した一部のタワーマンションを国と東京都が買い取って〈安楽死特区〉
を立ち上げることを正式に発表した。

その後、〈安楽死特区〉は問題だらけであることが発覚する。
そして池端貴子は事件により亡くなるが、亡くなる前日に
次のことをこっそり話していた。

「国と東京都が、この〈安楽死特区〉を作った、もうひとつの目的です。
〈安楽死特区〉には、今、認知症の人も少なからず入居されています。
終末期ではない認知症の人を、「回復の望みがない」「耐えられない精神的
な痛みを伴う」ことを前提に、〈安楽死特区〉への受け入れを国が認可
したのは、なぜだと思いますか。それは、おひとりさま(家族のいない)
認知症の人の財産を狙ってのことだと、池端さんは私に打ち明けました。
認知症患者が保有する金融財産は、今や200兆円もあり、我が国の
家計金融資産全体の1割にあたります。内、おひとりさまの認知症の人が
保有する金融資産はその半分近いのです。おひとりさま認知症の人の
お金が、社会に回らないままでいるのは、この国の大きな損失である、
だから国は、孤独担当大臣を作ったのだ。
孤独死対策の本当の狙いはそっちにある」

安楽死を選ばなくとも、あなたらしい最期をもう一度、考えてください。
この国は、命と経済を天秤にかけて〈安楽死特区〉を作ったのです。
そんな場所で死ぬことが、本当に自分らしい最期だといえますか。
                         (引用ここまで)



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