
父が変だ

何日か前から父がおかしな行動をし始めました。
こっそりと寝室に入って行って見ると、盗みでもするのが見つかった人のようにびっくり驚いていました。
「全く、びっくりした。そうやって急に戸を開けるとは何だ。」
ある日、電話をしていて私の気配を感じてびっくりして受話器を床に放り出したこともありました。
「はっきりさせなきゃ。」
父のおかしな行動はそれで終わりではありませんでした。一日中、郵便受けの傍をうろうろしながら、今まで見たことも無かった電話料金の請求書を待っていたかと思うと、告知書を見ては大きなため息をついたりしました。
「まったく、これはどうしよう。どうしよう。」
さっぱり話をすればいいものを、父は何も言いません。私はこれ以上我慢できず、父に単刀直入に聞いてみました。
「お父さん、もしかしてガールフレンドでもできたの。」
「いや、違う。違う。絶対違うから、変な想像はするな。」
「おかしいわね。じゃあ一体何なの。」
私が疑いのまなざしで見ながら、父は、ためらいながら秘密を話し出しました。
「う―ん、実はだな、、、私が、」
テレビで独居老人を助ける放送を見て、善い心から電話募金運動に参加するようになった父。情け深い父は1ヶ月の間、放送を見ながら毎日のように受話器を持っていたのでした。それを誰にも知られないようにしようとして、私が部屋に入るたびに驚いていたのでした。そうしていて電話料金が請求される日が近づいてきて、ひどい高額になっていたので夜も眠れないでいたのでした。
「今月の電話料金が高くなっただろう。私が使ったのだから私が出そう。」
電話料金、何円かですまながる父を見て胸が痛みました。生涯、家族のために生きてきた父が、その程度のことを気にするのがかわいそうでもありました。
私は、独居老人に愛の手を差し伸べた父の手をぎゅっと握りました。
「お父さん、心配しないで下さい。そんなことで使ったお金ならば、いくらでも大丈夫です。だから、やりたければ思いっきり電話してください。ねっ。」
それでやっとほっとした父は、明るく笑いました。困っている隣人のために施すことを知っている父を、私は本当に誇らしく思います。