幸福の味
母には、毎月月末になると必ずやってくる客がいます。空き瓶とか排紙を売って生活をしている隣のおばあさんです。おばあさんがうちに来る頃になると、我が家はそれこそごみの巣になります。町内全部の排紙と言う排紙を集めて、おばあさんにあげる母の献身的な努力のせいです。排紙の束が山のように積まれると、それで埃も多くなり、家を掃いて拭いて片付ける仕事も多くなります。1,2回でもなく毎月のように繰り返されると嫌気がさすほどでした。だから、ある日私は母に余計なことを言ってしまいました。
「お母さん、これを売っていくらになるというの。そうやっておばあさんを助けたければ毎月少しずつ生活費を上げればいいじゃないの。そうすればお母さんも大変じゃないし、おばあさんもそれを望んでいるはずだわ。」
私の考えが足りず言った一言に、母は悔しくて残念だという顔色になりました。
「お前、それは話にならない。ひとりで苦労して一生懸命暮らしているおばあさんに、同情しろというの。おばあさんは汗を流して仕事をして正当な対価を得ているのよ。そして、私はほんの少し助けているだけで、、、。」
お母さんに痛く怒られた私は、1ヵ月後おばあさんに会った時、申し訳ない気持ちになりました。ちょうど年末だったので、いつもよりも丁寧に年末の挨拶をしました。
「おばあさん、新しい年もお元気で。来年はもっとたくさん来てください。へへへ、、、。」
数日後、正月の朝、我が家はとても特別な贈り物を受けとりました。新鮮な卵1ケースと1通の手紙、、、。皆が深く寝入っている明け方ごろ、おばあさんが音も立てずに来て、家の前に置いていった新年の贈り物であり、気持ちだったのです。その上、家の前の掃除も、きれいにしてありました。おばあさんは、この間の母がしてくれた暖かい愛情に対する感謝の気持ちを手紙に書いていました。
「いつも気を使ってくれてありがとう。仕事は大変だけれど、私を思ってくれる隣人がいてくれて、楽しく仕事をすることができます。お正月で何かしてあげたいのですが、あげるものが卵しかありません。それでも気持ちだと思って受けてとってください。新年、明けましておめでとう。」
鉛筆でこつこつと押し書いた手紙から、一日一日最善を尽くして暮らしているおばあさんの温柔な性格を感じることが出来ました。
正月の朝、うちの家族は、卵のたくさん入った雑煮をおなかいっぱい食べました。おばあさんの素朴な情で味をつけた雑煮1杯は、新年の朝を明るく照らしてくれる幸福の味でした。