ここに車を駐車しないで下さい
私たち家族は少し前に引越しをしました。
新しい家は築30年の古いマンションでした。
新しい家に引越ししてうれしかったのですが、古い家のせいか不便なところも多くありました。その中で一番頭の痛い問題が、駐車の問題でした。世帯数に比べて駐車場がかなり少なく、いつもマンションの外に車を止めなければなりませんでした。1ヶ月ほどそうやって、やっとはじめてマンションの中に駐車することができました。車がぎっしり止まっている中に、ただ1台分だけ空いているのが目に入ったのです。
「うゎ、これは運がいい。他の人が来る前にすぐに止めないと。」
次の日も、その次の日もそこに止めることができました。その時までも、私はただ運がいいとだけ思っていました。
「そうだ。私は運がいいのだ。ここがずっと空いていたらいいけどな。家にも近いし。」
ところがある日、車のフロントガラスに紙が一枚はさんであるのを見つけました。
「ここに駐車しないで下さい。」
マンションの駐車場は住民ならば誰でも利用することができる空間なのに、まるでそこが専用の空間だとでも言うように、止めるなと書いてあるのを見て、とても気分が悪くなりました。
「ここが自分の土地でもあるましし、何でこんなことを言うんだ。チェっ、先に止めたが勝ちだ。」
私はその紙を気にしないで、そこに駐車し続けました。
そうやって何日か過ぎて家に入ろうとして、いつも空いているその駐車空間に車を止める青年を見かけました。彼は杖をついて車から降りました。マンションの婦人会長のおばさんが、その青年を見てうれしそうに声をかけました。
「しばらく玄関から遠いところに車を止めて大変だったでしょ。これからはもっと気を使うから。」
「いいえ。私は大丈夫です。」
「気にしないで。隣同士互いに助け合わないと。」
私はやっとわかりました。そこがいつも空いていた理由が。そこはマンションの住民が体の不自由な青年のために用意した特別席のようなものでした。
誰が強要した訳でもありません。自然にそして自発的にそこを青年に譲ってあげたのでした。
状況を知るなり、自分のしてきたことが恥ずかしくなりました。青年に近づいて行きこの間のことを告白しました。
「申し訳ない。引越し来て間もないものだからよくわからなくて。私のせいで不便だったでしょ。」
私が謝ると、青年はむしろもっとすまながりました。
「いいえ、共用の駐車場です。皆さんがこうやって気を使ってくださり、本当にありがたくて、申し訳ないのです。」
自分たちの利益よりも、苦しい隣人の便宜を先に考える住民たち、、、。他のマンションに比べると建物も古く、駐車場も狭いのですが、いいところに引っ越して来ました。隣人間の愛は、どのマンションよりも大きく豊かです。