妻の失敗
視覚障害者の夫を持つ妻がいました。
新聞記者だった夫は、事故で両目の視力を失いましたが、家でコラムを書いて新聞社に送る仕事を続けていました。
妻は夫が引っかかって転んだら大変だと、家の中のすべてのものをいつも定位置に置き、夫は視覚障害者の特有の感覚で、すべての事が一人でできるようになるまで自ら練習しまいた。
その日も、夫は遅くまで記事を書いていました。寝る準備した妻は、ベッドの上に横になり、仕事をする夫の姿を愛情いっぱいの目で眺めていました。ですがベッドの横の引き出しがじゃまになり、夫の顔の半分が見えません。
妻は引き出しを横に少しずらして夫を眺めました。
夫を見つめる妻の顔に、やっと明るい笑みが浮かびました。
どのぐらいたったでしょうか、妻は眠気に勝てず知らずに寝てしまいました。
夫の記事の作成が終わったのは真夜中でした。
「あぁ、疲れた。」
夫も伸びをして横になりました。
いつものように妻のそばに横になった夫は、ふと書斎の明かりを消さなかったことを思い出しました。ぐっすり寝ている妻をおこしてはいけないと思い、そっと起きた彼は、歩き出そうとした瞬間、引き出しに引っかかって倒れてしまいました。
目の前に火花が飛んで全身に熱湯をかけられたような感じと共に床に倒れました。メガネとスタンドが壊れる音に驚いた妻が起き上がりました。
「あなた、どうしたの。」
驚いた妻は、夫を支えて起こしました。
「う、大丈夫だ。」
「これ、血だわ、血、、、」
救急車がきて病院に運び込まれ応急処置を受けて、妻はやっと事態を把握することができました。妻は泣きながら言いました。
「あなた、ごめんなさい。私のせいだわ。引き出しを少し動かしたのに、、そのまま、」
本当に少しだったのでした。10センチになるかならないか動かした引き出しにぶつかって上まぶたが裂けたのです。
奇跡は、何日か病院の世話になって退院して帰る車の中で起こりました。
夫が目をこすって窓の外に頭を回した瞬間でした。
「どうしたの。目が変なの、病院に戻ろうか。」
「いや。それが、、、見えるみたいだ。」
妻はとても驚いて道端に車を止めました。夫は妻の顔がぼやっと見えると言いました。
「見える、お前が見える。」
「あなた。」
妻の目に涙が浮かびました。夫の顔が見たくて引き出しを動かした妻の深い愛が、信じられない奇跡を起こしたのです。