娘の笑顔を探して
生まれてから100日になる娘を乳母車に乗せて銀行に行った時のことです。子供を横においてあれこれと用を足していると、一人のおばさんが乳母車の中を覗き込んで娘に挨拶しました。
「こんにちわ。」
子供が本当にかわいいと何回か目を合わせたと思ったら、おばさんはかがんでいた腰を伸ばして、私の横を通り過ぎながら独り言を言いました。
「子供なのに、にこりともしないわね、、」
話のわからない赤ん坊に何がわかるかと、ちょっと見ただけで笑うとか笑わなとか余計なお世話よと、気分が悪いと思いました。何日か前にも笑わない娘のせいで、写真館で100日の写真を写そうと大変でした。写真館を3軒も回ったのですが、結局、娘が笑っている写真を1枚も撮ることができませんでした。しかめ顔のお姫様の写真ばかりでした。
大したことではないと、子供は元々良くは笑わないものだと自らをなぐさめて見ましたが、一方では釈然としませんでした。
「家の娘は一体なぜ笑わないのだろう。理由が何だろうか。こうしていたら一生、氷の王女と呼ばれたらどうしよう。永遠に笑わないのではないか、、、。」
怖くなって本を調べましたが、答えを見つけることができませんでした。がっかりしたあまり、実家の母と電話で話をしながら愚痴を並べました。
「お母さん、うちの子、何で笑わないんだろう。」
「ママが、毎日しかめ顔をしているのに、子供が何を見て学ぶのよ、、、、。」
母の話を聞いたときには、話にならないと思ったのですが、ある日、娘を抱いて鏡の前に立ったら驚愕しました。鏡に映った私たち母子の姿を見てふと飛び出した一言、、、。「本当に、同じだわ。」
不満いっぱいの目つきと疲労で汚れて力のない唇、、、。どうしたものか娘の顔が私とそっくりで、瓜二つでした。新米の母親たちが皆そうであるように、子供を生んで育てるということが何でこんなに大変なのか、私の顔はいつも曇っていたのでしょう。それで娘がそのしかめた表情に、そのまま似るとは、、、
「う、、、ダメだ、ダメよ。これではいけない。私がどうして、受け継ぐものがないからと、しかめた顔を受け継がせるのよ、、、。これからでも笑って暮らさなきゃ。娘を笑顔にしないと。」
そうやって考えを変えた後、子供に対する私の態度に変化の風が吹きました。いつも娘の名前を呼びながら笑顔で抱いてやりました。日常でもわざと大きく笑って、、、。笑いの天国を作ってやろうと努力したというか。
何日か後に、また銀行に行った時、今度は銀行の職員が娘にこんにちわと挨拶しました。果たして娘の反応はどうなるか気になりましたが、口を大きく開けて笑うではありませんか。天を飛ぶように気分が良かったです。
笑顔がくれる魅力、一瞬、つられて笑顔のなってしまう伝染性ではないかと思います。