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은인
恩人
雨が降る夜となれば、母と私はビールを飲みながら話をする。
その日も一杯飲んでいる最中に母が幼い頃の話をした。
「お前が5歳のとき事故にあったの、覚えている?」
「いや、全然。」
私が道路を横切ろうとしてバスに弾かれたことがあったとのことだった。
家にいた母は知らせを聞くなり1歳にもならない弟を背負って飛び出してきたそうだ。
「そのとき、本当にありがたい人がいた。
119番に連絡しようにも公衆電話まではかなり距離があり、
家には車がなかった。
急な出来事にお父さんもどうしていいかわからなかった。
だけど、そのときちょうど通りかかったおじさんが車を止めてお前を乗せようとしてくれた。
血がいっぱい出ていたのに。」
私は驚いて聞き返した。
「自分の車に?」
母はうなづいた。
「そうなの。お前を乗せたら車がどうなるかはどうでもよかったのよ。
そのおじさんがいなかったら本当に危なかったわ。」
その日お父さんはお礼の気持ちで洗車代を払おうとしたのだけれど、
そのおじさんは受け取らなかった。
話を聞いてそのおじさんが誰なのか気になった。
「今はどのように暮らしているのかしら?」
そのおじさんが助けてくれなければ今の私はないかも知れないと思うと
感動で胸が一杯になった。
世の中は他の人の助けがなければ生きていくことができないということを
いまさらながら悟った。
私もそのおじさんのように助けの必要な人に喜んで手を差し伸べようと思う。
ノジュウォン
(2023/7月25日画像サイズ変更)