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これからは配達を頼まないで下さい
彼女は体の左側が不自由な障害者です。
杖が無ければ歩くことができないのですが、自分と同じ境遇の人々のために福祉館の奉仕を始めて、そこで生涯の伴侶と出会いました。
彼女の夫は右側の足の指が動くだけの脳性まひの障害を持った人です。やっと準備した新居は地下にあってたくさんの階段を上がり降りしなければなりませんでした。夫婦は、誰かの助けが無ければ玄関さえも出ることができませんでした。
その日も実家の父の助けを借りてやっと外出しました。ですが、家の近くに来て困難な状況に陥ってしまいました。
「すまないな。急に家に用事ができてしまった。私がボランティアに連絡したから家の前で少し待っていなさい。わかったかい。」
父親が急いで帰り、夫婦は家の前で呆然と立ってボランティアを待たなければなりませんでした。ですが日が暮れても手伝ってくれる人は来ませんでした。何か問題が起こったのだろうと思った彼女に、はたと妙案が浮かびました。
「あなた、私たち鳥のから揚げを注文しましょう。」
彼女は電柱に張ってある広告を見て鳥のから揚げを注文しました。配達員が来ると彼女はお金を払いながら申し訳なさそうに頼みました。
「あの、申し訳ないのですが、私たち、体が不自由で一人では家に入っていけないのです。家の主人を玄関まで連れて行ってくれませんか。」
若い配達員は何も言わないで、さっと夫を車椅子から抱き上げて部屋の中まで連れて行ってくれました。その後にも彼女は同じような状況になると鳥のから揚げを注文して配達員に援助を頼みました。ある日、この間何も言わないで助けてくれていた青年がとうとう胸のうちを吐き出しました。
「あの、これからはから揚げの注文をしないで下さい。」
彼女はとうとう来る時が来たと思いました。
「本当にすみません。この間大変だったでしょ。こんなことをしてはいけないと思っていたけど、助けてもらうところが無くて。」
ですが、青年は照れくさそうに手を振って言いました。
「そうではなくて、から揚げを頼まなくてもいいです。助けが必要なら、ただ呼んでください。そうしたらすぐに駆けつけますから。」
から揚げの配達員の言葉は、いつも疎外感を感じていた夫婦にはこの上ない心強く暖かいなぐさめになりました。
「ありがとうございます。私たちに大きな力になりました。」
不自由な体だけでなく傷ついた心までも温かく包んでくれる青年に、彼女は本当の人の香りを感じたのでした。