7月1日(金)
17時50分 渋谷スクランブル交差点をセンター街方向に渡り
渋谷スクランブル交差点1
松涛邸宅街を抜け、山手通りを左折して介護病院に着いた。
駐車場には高級車が停まっているが、弟のカローラはない。
3階の病室に上がると、お袋は計算ドリルをしていた。
暫くすると、弟がやってきた。
「帰るな 帰るな」とお袋はかすれ声で呟き続ける。
お袋のベッドと真向い合わせのベッドはカーテンが閉じられていた。
いつも、この時間には60代らしき娘さんがやって来て
植物人間になった88歳の母親の顔をナプキンで丁寧に拭き
耳元に子守唄を唄っていた。
気配がないので、カーテン越に覗くと
ベッドは折りたたまれて、マットレス、シーツもなかった。
驚いて弟に伝えた。
水曜日に来た時は、見舞いの娘さんはいた。
木曜日に静かに呼吸が止まったようだ。
病室には4つのベッドがある
お袋のベッド脇テーブルには、縁側で孫を抱くお袋
駐車場で孫を抱く親父。
その孫が結婚して赤ちゃんを抱き
ひ孫をおばあちゃんに見せている。
お袋が入院して3年以上が経過。
お袋だけは生きて留まっているが
その間、三つのベッドでは幾人の婦人が
召され何処に旅立った。
ご遺族以外から見れば、死はあっけない瞬間。
そのご婦人の人生が過酷だったか、悲しい人生だったか
幸福な生涯であったか知るよしもない。
確かなのは、世間から見れば完璧看護を受けて
恵まれて旅立ったことだ。
高校生らしきカップルが快楽ホテルに堂々と入り
中年カップルが、人目を避けて素早く入る。
今日も、生が燃え尽きるベッドと情熱で生きるベッドの
境界地帯を彷徨った。
渋谷スクランブル交差点2
永劫回帰か輪廻転生なのか
難しい人生論は理解できないが
確かなのは死ぬことに失敗はないことだ。