「アブダビへ行く道は霧で閉鎖されているので、霧が晴れるまで移動できないよ。」 確か季節は日本の冬だったかもしれない。朝はよく霧が出た。20年程前だと思う。それが記憶に残る、初めてのドバイ。
久しぶりにドバイに行った。ドバイからアブダビ方面の砂漠にアメリカサイズのハ イウェイが走り、道の両側には高層ビルが果てしなく続く。いつ完成するとも知れぬ世界一を競うノッポビル。海には人工島のレジデンスとリゾートホテル、砂漠に巨大なショッピングモールとゴルフ場。外気は38度、モールの中は涼し過ぎるほどに冷やされ、滑る人のいない大きな人口スキー場。
米国式金融資本主義に奢り昂ぶった人々が「バベルの塔」を建てている。巨大な塔を建て、天まで達するように企てたが、神の怒りにふれ、神は世界の言葉を「ばらばら」にし傲慢な人間を戒めたと言われる。それの物語を信ずるかどうかは別として、人間はしばしば過ちを犯す。物欲、便利さ、快適さの充足果てしなく追求してきた19世紀初頭の産業革命に始まった化石燃料文明は必ず滅びると確信させてくれた。
自分の欲望・幸せだけを追求するのではなく、自然の美しさ、畏怖、そしてその恵みを知り、地球、国、地域、そして当然の如く家族をも省みなければならないことを知っている。大地に深く、しっかりと根を張った大樹は、どんな風雪にも耐える。この大地は、人間の尊厳であり、人間の幸せである。バベルの塔を築くのではなく、血と汗で若木を植え、地中深く根を張る大樹を育てたい。私の黄昏は迫る。時間はそれほど残っていない・・・。