慈悲深き“Theropoda”

2011-03-22 17:22:11 | 鳥(Birds)


ヒクイドリ(Casuarius casuarius johnsonii) Southern Cassowary


オーストラリア8日目。
毎日、鳥を見るため駆けずり回っていた私にも、そろそろ疲れが見えてきた。おかげで朝からまぶたの重い私は、熱帯雨林の真っ只中で1人座ったまま、うつらうつらと居眠りを始めてしまった。今日はあの目覚ましになりそうなくらい大声で鳴くコウロコフウチョウがまだ来ていないせいもあったのだろう。
辺りには友人はおろか誰も居ない。

―どのくらいの間、眠ってしまったのだろうか。
「カチッ、カチッ」という不思議な音に気が付いて目を開けた私は、思わず絶句した。

何ということだろう....!巨大な野生のヒクイドリが、私からほんの1メートルの距離に佇み、私の顔をしげしげと覗き込んでいるではないか!
私はこの時、鳥に対して初めて恐怖心というものを抱いた。もしヒクイドリの機嫌が悪かったり、怒らせたりしたならば恐竜並みの破壊力を秘めた蹴りを喰らって、私はたちどころにただの肉塊になってしまうだろう。
カメラを構えることすら失礼に値すると思った私は、しばらく無言で座ったまま動かずに、ヒクイドリと見つめ合った。
「カチッ、カチッ」という音は、ヒクイドリが嘴を打ち鳴らす音で、この間にも何度も発している。

初めは畏怖の念を覚えていた私であったけれど、ヒクイドリの心なしか優しい表情に、恐怖心はそのうちヒクイドリというとんでもない生き物にとんでもない近さで遭遇したのだという感動に徐々に変わっていった。そして私はなけなしの勇気を振り絞って静かに立ち上がり、闇夜に霜が降りるが如く静かにシャッターを切った。

しばらくして“人間観察”を終えた慈悲深いヒクイドリは、ゆっくりと、そして堂々と、熱帯雨林の森の中へ帰っていった。
それを見届けた私は、腰が抜けたかのようにまたその場にへたりと座り込んだ。色んな感情が混ざりに混ざって、まだ全く体の震えが止まらない....!こんなに素晴らしい出逢いは、決して一生忘れることは無いだろう。



【2010/03/10/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】


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