アネハヅル(Anthropoides virgo) Demoiselle Crane
秋も深まるこの頃、ふらりと北陸を訪れた。
早朝に金沢で友人達と落ち合い、能登半島を一路北上する。車内でのトリ談義は久しぶりに心から楽しくて、次はどこの国を攻めようかとか、あの双眼鏡は良いこのスコープはダメだなどと散らかり放題な会話をしているうちに、あっという間に水田地帯へ着いた。
行きの車の中で何度名前を連呼したかかわらないコイツを実際に双眼鏡に捉えてみると、もはやその神々しいオーラに私は釘付けになってしまった。
背面のグレーは図鑑で見るよりもずっと上品な美しさで、思わず触れたくなるような質感が見てとれる。目の後方の白と胸の黒い飾り羽はスラリとした立ち姿をさらに格好よく引き立たせていた。
嘴の先とともに赤い虹彩が畏れ多さを醸し出す中、伸長した三列が “ツルらしさ” をそこにとどめて見事な形態に仕上げている。
無言のまま双眼鏡で見て、カメラのファインダーから見て、友人のスコープで見て、恍惚の溜息をついた私は、また双眼鏡に手をのばした。
いずれモンゴルかネパールで見ることになるだろうなと思っていたけれど、日本でライフリストに加えられたのは良かった。
昼過ぎから周辺の環境をまわって、チュウヒや冬羽のクロハラアジサシ、干潟部に集まるカモやユリカモメの中に混ざるケリを見た後、アネハの採餌を見ようとまたこの水田に戻ってきた。すると案の定、アネハは何かを食べていた。
見ていると、かなり頻繁に、顔を上げずとも飲み込める何かをついばんでいる。3人で観察する中で、どうやらアネハは残った落ち穂を探して食べているらしいことがわかった。
最後に見せてくれた飛翔では初列から三列までが太い黒帯となって一様に黒く、夕闇の中で妖しく動いた。
―この日、午前中は猛禽が飛んでいない時でもチラチラと上空を気にして、採餌の際には盛んに体力補給をしていたこのアネハ。今日にはもう姿が見られなかったそうだ。
【Noto Peninsula, Ishikawa pref. Japan/20th October, 2012】
ツツドリ 赤色型(Cuculus saturatus horsfieldi) Oriental Cuckoo/Hepatic Morph
秋の渡りが始まった。
春もまたそうなのだけれど、渡りの季節になると、とにかく鳥が気になって仕方なくなる。
そのうち友人知人から「何がし島に行ってきました~」なんてメールが来ようものなら頭の中が鳥で一杯にになり、今日なんて行きもしないのに離島航路のここ2、3日の運航状況を調べてしまった。
このツツドリは、何の変哲も無い小川の横の桜並木で見た。
見るからに渡り疲れているこのツツドリがなぜ桜並木に居たかというと、桜に付く大好物の毛虫が目当てだったようだ。ランニングや散歩をする人が真下を通りかかっても目もくれず、とにかく毛虫を食べて体力補給。食べなきゃ落鳥してしまいそう、という様子だった。
夕日の差し込む枝にとまった時には、美しい赤茶色が映えた。
【Tokyo(東京),Japan/16th September, 2012】