サバクヒタキ(Oenanthe deserti orephila) Desert Wheatear
まだ夜明けから間もなく、沼から生まれた深い霧が冬の田に立ち込めている頃。
砂利が敷かれた農道の地面や刈り取られたまま耕されずに放置された稲株には霜が降り、辺りの景色はまるで色褪せた写真のようにコントラストを失っていた。
この見た目のみならず実にも寒い早朝の濃霧の中で、サバクヒタキは既に活発に行動していた。この鳥の繁殖地に比べたら、日本の環境なんて、ぬるい、ぬるま湯だよ、なーんて思っているのだろう。一方こちらは寒すぎて持っている三脚に手のひらが貼り付きそうだった。
朝日がとっくに出ているはずなのに辺りを暗くしていた霧はやがて晴れ、動かず冷え切った私の体を溶かす待望の朝日に照らされる頃、辺りをチュウヒが飛び始め、タヒバリがピィと鳴いて頭上をかすめていった。また、時折タゲリが10羽程度の群れで飛んで行き、遠くの農耕地に舞い降りた。
そして、ついには霜も完全に溶けた頃。小鳥が隠れるのには十分なほどに稲株が茂った田圃の中で遊んでいた先程のサバクヒタキが、辺りを見回すため目立つ場所に飛んできた。
【2010/12/21/千葉 Chiba,Japan/Dec.2010】
コアオアシシギ(Tringa stagnatilis) Marsh Sandpiper
アメリカコハクチョウを見た後、私達は農耕地へ向かった。
香しき芳香漂う牛舎の近くには、おびただしい数の牛舎好きのムクドリが群れで採餌していて、その中に3羽のホシムクドリが混ざっていた。まるで冬の空いっぱいに散りばめた天体を纏ったかのような美しい羽衣をした冬羽のホシムクドリは、ムクドリの大群の中でわき目も振らずに採餌していて、少しもこちらを見てくれなかった。そのうち思い立ったように群れは飛び立ち、電線に少しとまった後、今度は鳥の体が全て隠れてしまうほどの草丈の休耕地に吸い込まれていった。
この辺りには広大な芦原が多いせいか、なんてことはない農耕地にもチュウヒが凄く多くて、何か猛禽が飛んでいると思えば、その殆どが翼をV字に傾けて飛んでいる。
蓮田には4羽のタシギが眠そうに休んでいた。また泥水にしか思えない蓮田の浅くなった場所の水では、無限供給されるムクドリが交代で水浴びを楽しんでいた。
エリマキシギ(Philomachus pugnax) Ruff
別の蓮田にはオオハシシギが大勢で休んでいて、皆入念に羽繕いをしている。その群れの中心に、2羽のエリマキシギが混ざっていた。
ヨーロッパトウネン(Calidris minuta) Little Stint
また別の蓮田では、田に入って農作業をしている人がいた。けれど、ここのシギ達はそんなことは慣れっこな様子で、鳴きながら飛び立ってもまた同じ田に舞い戻ってくる。よほど蓮田がお気に入りな様子。
蓮田の最奥部、タカブシギがちらほら歩く区画で、尾を斜め上に向けて採餌する小さなヨロネンが2羽いた。この2羽はひとしきり餌を探した後、蓮田の仕切りに上がって休みの体勢をとり始めた。しめしめ、これで採餌していた時には見えなかった脚の長さがわかる。
辺りが薄暗くなり、そろそろ引き上げようと歩き出した時。アカウキクサ属の水生シダが水面に繁茂して、まるで上品な赤色の絨毯が敷き詰められたような舞台を、スタスタとテンポよく3羽で採餌する細く美しいコアオアシシギに出遭った。コアオアシシギ達は餌探しに夢中なためかすぐ近くまで歩いてきて、そのうちの1羽がふとこちらに目線をよこした。
【2010/12/21/千葉 Chiba,Japan】
アメリカコハクチョウ(Cygnus columbianus columbianus) Whistling Swan
オオハクチョウの渡来地である伊豆沼にはよく行く機会があるけれど、コハクチョウが大半のハクチョウ渡来地に訪れたのは初めてのことだった。
この田圃の1面に水を張っただけの小さな池には2種のハクチョウ、それから何故かどこのハクチョウ渡来地にも圧倒的に多いオナガガモ、それからハシビロガモと他数種のカモが所狭しと池の縁に並んで休んでいる。
さて、ここで飛び立ったり眠ったり自由なコハクチョウ達を1羽1羽チェックしていくと、群れの中に数羽の亜種アメリカコハクチョウが混ざっていた。
しばらくすると、またどこかから数羽のハクチョウ達が池に飛んで戻ってきた。ハクチョウがこの狭い池に舞い降りる際、空中でその巨体に急ブレーキをかけるものだから羽が唸って「バラララッツ!」とマフラーの悪いバイクのような音がした。
オオヒシクイ(Anser fabalis middendorffii) Bean Goose
コハクチョウの群れに混ざって1羽、落ち穂を探すオオヒシクイ。特に餌がある場所では、ハクチョウは警戒心が薄くなるけれど、ヒシクイは普通そんなことは無いはず。はてさて、この個体は自分をコハクチョウだとでも思っているのだろうか。
早いものでもう1月も終わりに近いですが、今年も当ブログをよろしくお願い致します。
【2010/12/21/千葉 Chiba,Japan】
2011年1月 深海魚 まとめ ※リンクをクリックすると記事に移動します
【1】 Deep Sea Monsters part1
【2】 Deep Sea Monsters part2
【3】 Deep Sea Monsters part3
【4】 Deep Sea Monsters part4
シギウナギ(Nemichthys scolopaceus) Slender snipe-eel
深海魚シリーズ、最後の魚はこのシギウナギ。
この容貌に加えて、名前がこの魚の素敵度を3割増しにしていることは間違いない。
上顎はまるでアボセットのように反り返り、下顎はホウロクシギのように湾曲しているけれど、これは命が尽きているからこういう曲がり方をしているのではない。そもそも構造上、噛み合わせられないようになっているようだ。
この口に入った獲物を、果たしてこの細い体のどこに収めるというのだろうか。
また、注目てほしいのはこの体色。例えば同目のウナギの成魚は上面が濃色、下面が淡色をしているけれど、このシギウナギは(個体により色彩変異があるらしいが)例えば淡色の水底に居る時のカワアナゴみたいに上面が淡色、下面が濃色をしている。
【2010/01/14/小笠原諸島近海 from Ogasawara ocean area,Japan】