ウージ畑の住人

2010-12-26 16:38:28 | 鳥(Birds)

ミフウズラ(Turnix suscitator) Barred Buttonquail


日没直前、最後に私達はサトウキビ畑へと向った。
農耕地を流れる川の堰堤奥には鳥が集合していて、アマサギ、コサギ、クサシギ、イソシギ、オナガガモ、コガモ、そしてバリケンが西日に照らされていた。
まだ丈の低いサトウキビ畑に差し掛かった時、遠まわしな表現で友人が言う、「今、畑に茶色い団子が落ちていた」。2人は何かに確信した顔になってすぐさま引き返し、畑のウネのそこかしこに視線を飛ばすと...いた。雄のミフウズラが2羽、砂浴びをしていたのである。
今まで宮古島で何度か見たことはあったけれど、すぐにサトウキビ畑に潜ってしまうミフウズラをこれほど観察できたのは初めての事だった。ミフウズラはひとしきり砂を浴びるとこの草丈の低いサトウキビ畑を横断して、サトウキビが人の身長よりも高く茂った区画に姿を消した。そして日暮れである。






【2010/12/05/沖縄本島 Okinawa,Japan】

スプーン・ビル

2010-12-25 17:12:52 | 鳥(Birds)


クロツラヘラサギ(Platalea minor) Black-faced Spoonbill


池の奥、対岸からは丁度葦に隠れて見えない部分には、10羽のクロツラヘラサギが休んでいた。初め、全てのクロツラヘラサギが嘴を背中に突っ込んで動かなかったけれど、1羽のアオサギが景気づけに咆哮したために目を覚ました若者が寝ぼけ眼でゆらりと動き始めた。
採餌の際に見せるあのユニークな、スプーン型の嘴を振り子のように首を左右に小気味良いリズムで振るという動作を織り交ぜて、羽繕いを丹念にする。その後また眠気が来たのか、群れに並んで嘴を背中に突っ込み休み始めた。この一連の流れはまるで、朝は遅く起きて朝食をとり、いくらかテレビに向った後また二度寝をする、というような何もしない休日の私のようであり、そこはかとなく親近感を覚えた。
他にもカモが4種と、脚がオレンジ色をしているエリマキシギ、タシギが数羽、セイタカシギが10羽など、皆クロツラヘラサギにつられてか眠たそうにしていた。池の周囲を歩くと、キョロッキョロ鳴くタイワンシロガシラ、小群で楽しそうに鳴き交わすシマキンパラ、シロハラ、リュウキュウツバメ等が見られた。



イソヒヨドリ(Monticola solitarius) Blue Rock Thrush


その後、私達は豊崎干潟へ向った。このゴツゴツした岩礁がそこら中にある干潟にもまた、多くの鳥がウロついていた。
一番目立つダイシャクシギは、最も餌が捕れそうな砂泥部を堂々と歩く。その周りをちょこまかと動き回っているのはハマシギ、コチドリ、ムナグロ、メダイチドリ、オオメダイチドリ、そして1羽のヒバリシギがいた。川の端を双眼鏡で滑らせると、タカブシギ、キアシシギ、ムナグロ、チュウシャクシギがそれぞれ孤独に餌を探していた。しばらくすると、与根遊水池の方向から5羽のクロツラヘラサギが飛翔してきて、これまた人間から一番遠い中州に落ち着いた。これはやっと動き出したか、と思いきや、また眠り始めた。何のために場所を移動してきたのか分かったものではない。

次の場所へ移動しようかと思った矢先、1羽のイソヒヨドリが私達の目の前にやって来て、こちらを物欲しそうに見つめ出した。すぐ近くにショッピングモールがあるから、おおかた観光客に餌でも貰った経験があるのだろう。そうでなくても本州に比べて沖縄のイソヒヨドリはとても人懐っこいけれど。日没が迫っていたため、一刻も早く次の場所に行きたいからお前の相手などしているヒマはないよ、と自分の運動神経に電気信号を送ろうと試みるも、足が一向に動かない。まったく、この懐っこさは反則だ。

さらに私達は、広大な具志干潟へ向った。もうかなり太陽が傾いている。
だだっ広い引き潮の果て、「おばぁ」が何かを採っているあたりには鳥達も多く、シギチは今日見てきた顔ぶれがいる。少し水深のある岩場では、白色型のクロサギが低姿勢で獲物を狙っている。チュウサギやコサギが点々とする中、嘴が短くて黒い、2羽のズグロカモメが干潟上に降りていた。そのうちズグロカモメは思い立ったように飛び立ち、とにかく広い干潟の私を挟んで対岸ほどにまた舞い降りた。これでは到底近づけたものではない。
離れた場所にいた友人が干潟に注ぐ水路を泳ぐオキナワフグやぴょんぴょん跳ねるミナミトビハゼ、干潟でウェービングする数種のシオマネキを見つけた頃、私がそろそろ移動しようと声をかけた。


【2010/12/05/沖縄本島 Okinawa,Japan】


そうだ、沖縄行こう。

2010-12-24 19:34:59 | 鳥(Birds)


オオハシシギ(Limnodromus scolopaceus) Long-billed Dowitcher


12月も近づいて来た頃、例によってまたあの衝動が私を襲った。“沖縄が足りない”。深刻な沖縄不足である。
渇望していたのは私だけではなかったようで、しばらく何処にも行けていない友人もまたそうであった。
―こうして、どちらから言い出したか、あっという間に短期日程の遠征計画が決まった。
いつもの事だけれど、飛行機の時間があまりにも早すぎるために空港付近の狭苦しいがとびきり安いネット喫茶に前日深夜から入り夜を明かした私達は、機内では干潟の泥のように眠った。
寒くて場違いな格好でも、家から薄着をしてきて良かった。何故ならば、那覇空港から出た瞬間には冬とは思えないほどに生暖かい空気が私達の肺を満たしたのである。やはり沖縄はこうでなければ。
初めに、我部祖河食堂に駆け込んだ私達は、迷わずソーキそばを注文した。これを食べなければ「沖縄」は始まらない。体中の細胞がこのメニューを所望していただけあって、変わらない美味さをぺロリと食べ終わった空の丼に向って各々大げさな絶賛の言葉を浴びせた。

与根遊水池に着く頃には正午をまわっていた。
水が多くて池の砂泥部が露出していない代わりに、池から流れ出る水路には小さな干潟域が形成され、そこには池の鳥を箒で掃いて集めたかのように凝縮されたシギチ達が採餌していた。
3羽いたオオハシシギは初め、私達のすぐ足元を歩いていた。この鳥の餌採りはとても特徴的である。首を引いて一度勢いを付けた後、水中で息を止める練習のために水を張った洗面器に顔を沈める子どものように、一思いに泥地にその真っ直ぐな嘴を突き立てる。そして写真のような状態で数秒泥内を探る、という行動を繰り返すのだ。



コアオアシシギ(Tringa stagnatilis) Marsh Sandpiper


脚も嘴も細く、細身小顔で、抱きしめたら折れてしまいそうな華奢さを誇るコアオアシシギは、軽やかなフットワークでスイスイ歩く。
他にもアカアシシギが5羽、この中では群を抜いて背の高いセイタカシギ、それからタシギ、イソシギ、コチドリが盛んに歩き回り、干潟部分の移動とともに水路の奥に移動して行った。






【2010/12/05/沖縄本島 Okinawa,Japan】


春風と共に

2010-12-23 21:36:43 | 鳥(Birds)


タヒバリ(Anthus rubescens) Buff-bellied Pipit


4月のこと。
この日は麗らかな春の日和で、私は春風に誘われてふらりと近所の川原に散歩に出かけた。
休耕田では、土に窒素を供給する蓮華が咲き乱れて田圃一枚が爽やかなピンク色に染め上げられ、まだ殺風景な冬の景色に春を主張していた。
すぐ横の畑では、渡り前の体力補給に忙しいタヒバリが餌探しに専念して歩く。





【2010/04/11/神奈川 Kanagawa,Japan】




コオバシギ(Calidris canutus) Knot


この日は葛西で遙か陽炎の先のアボセットを見た後、三番瀬に向った。
満潮の干潟で大量のシギチがどうしているかというと、潮干狩り限界のネットやポールの上に鈴なりにとまって休息していたり、干潟の端に突き出た防波堤にごっちゃりと集まっていたりする。
個体によってはもうほとんど夏羽で綺麗なオオソリハシシギ、トウネン、ダイゼン、ムナグロ、ハマシギ、ミユビシギ、キョウジョシギ、オバシギ等がいて、その中にコオバシギがいた。
彼らは吹き荒む強風と、時おりかかる波しぶきもさほど気にしていない様子である。


【2010/04/25/千葉 Chiba,Japan】


羽休めの雁

2010-12-18 19:54:17 | 鳥(Birds)


ヒシクイ(Anser fabalis serrirostris) Bean Goose


普段、あまり行かないような場所に訪れると、思わぬ出遭いをすることがある。
この日はとてもうららかな日和だったけれど、鳥を見ていてもいよいよ冬が来たのだと感じさせられるような日だった。
富士からの透明な湧水が川の本流に合流して、その境が2色に見える辺りにはカモ達がたむろしていた。マガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、そして8羽ほどもいるヨシガモも、見ているこちら側からは十分な距離があるためか私達のことはさほど気にも留めていない。夏にはとどまる所を知らずに繁茂して、河川敷を覆い尽くしていた葛やその他の草も枯れ始め、ホオジロ達の遊び場に変わりつつある。その河川敷では、ノスリがやや丈夫な草の茎にとまろうと苦労してばたついていた。また、鳥の鳴き声というものはしばらく聞かないと忘れそうになるもので、聞こえた鋭い鳴き声がシメだと思い出すのには少し時間がかかってしまった。日が傾きかけた頃には、少し冷たい風とともにやってきた30羽以上のツグミの群れが潅木に舞い降りた。

河川敷に広がる農耕地に通る小高い堤防の上を歩いていると、収穫も終わり耕された田の中に、2羽の雁が座っていた。
この2羽のヒシクイは、私が近づこうともただ私を見つめ返すだけで警戒の態勢すらあまりとらないほどに疲れ切っており、借りてきた猫みたいであった。あまり捕食されそうにない私の相手をする位なら睡眠をとりたい、というような様子で、写真のような大きなあくびをひとつするととても眠たそうな顔をして、それからゆっくり首を曲げて眠りについた。
もしかすると、琵琶湖に渡る途中の個体なのかもしれない。










【2010/11/12/静岡 狩野川 Sizuoka,Japan】


※追記と訂正

オオヒシクイ(Anser fabalis middendorffii

本日12月21日。亜種オオヒシクイを実際に見てみた。
すると嘴から額にかけてのくびれや、寸詰まりで丸い顔つきからしても11月12日に狩野川で見たものはもう明らかに亜種ヒシクイであることを学んだ。こう見比べてみると確かに首の長さも違うわけで、迷った原因である嘴の厚みなどは亜種ヒシクイの個体差の範囲に収まるレベルだった。