ツクシガモ(Tadorna tadorna) Common Shelduck
2日目の夜のうちにさらに九州を南下した私は、3日目の朝を駐車場の車中で迎えた。
夜明けと同時ぐらいに着くと考えていたが思いの他早めに到着したため、辺りはまだ真っ暗。
私は暖房を付けた車内で夜明けまでに起きるつもりで居眠りを始めた。
しばらくして目が覚めると、何やら改造バイクで爆音を上げる連中が同じ駐車場で騒いでいた。
普通なら眠りを妨害され「鶏冠にきた!」となるところ、今回は彼らの爆音に感謝せねばなるまい。というのも、目覚ましにセットしたアラームは寝ぼけた私によって既に停止、夜もすっかり明けていたのだ。
慌てて起き出した私は堤防を越え、初めて訪れた大授搦(だいじゅがらみ)の干潟に臨んだ。
大授搦は今まさに干潮、泥の上に水がひたひたの状態。少し曇った青白い朝の空を鏡のように映して、まるで地上にも空があると錯覚してしまいそうな、世にも見事な景色をつくり出していた。
よく見ると、その青色の干潟の上には無数のシギ、チドリやカモ達が散らばっている。
広大な景色の中に動くツクシガモを双眼鏡で捉えた時には、まるで巨大なジオラマの中で動く小さなクレイアートでも見ているかのような気分になった。
ハマシギ(Calidris alpina sakhalina) Dunlin
ダイゼン(Pluvialis squatarola) Grey Plover
【Daijugarami, Saga-pref., Japan(佐賀)/14th Jan. 2013】
クロツラヘラサギ(Platalea minor) Black-faced Spoonbill
干拓地の水路に1羽いたクロツラヘラサギ。こんな鳥がついでに見られてしまうのも九州の素晴らしいところ。
初列先端の黒褐色パッチはまだイマチャーのしるし。
【Nagasaki, Japan(長崎)/13th Jan. 2013】
ツリスガラ(Remiz pendulinus) Penduline Tit
やがて雨が上がると、一緒に雨宿りをしていたジョウビタキはいつの間にかどこかへ姿を消していた。
葦原の中を通る道を歩き出した私は、しばらくしてすぐに歩みを止め、耳をそばだてて辺りの様子をうかがった。
私の歩く木道の両サイドはちょうど人を隠すぐらいの高さの葦の壁なのだけれど、さっきからその壁の中でパチパチという音とともに沢山の気配がしているのだ。しかし、目をこらせど少しも姿は見えない。
何だろう、気になって仕方がない。
こうなったら姿を見せてくれるまで待とう。私は微動だにしないよう気をつけながら、その場で待つことにした。
そして数分後、殺風景な芦原が驚くべき光景に一転する。
5羽、10羽、いやどんどん増えて最終的には20羽くらいだろうか。気配の絶えなかったあたりの葦原からなんとツリスガラ達が湧き上がるように集まって来たのだ。
彼らはただ採餌しながら通過したのではない。何だコイツはと、私という生物を観察しに集まっている風だった。いわゆるマンウオッツチングなのだろう。
可愛いツリスガラ達に包囲され、緩みきった顔のまま固まっていた私は、うっかりしたことに少しだけ動いてしまった。
すると「ハイ、解散~」と言わんばかりに、ツリスガラ達はあっという間に1羽残らず葦原の奥へ戻っていき、やがて見えなくなってしまった。
【Nagasaki, Japan(長崎)/13th Jan. 2013】
ジョウビタキ(Phoenicurus auroreus auroreus) Daurian Redstart
ナベコウを見た広大な干拓地の海側には、これまた広大な葦原が広がっている。
葦原の中の木道を歩いて見晴台のヤグラのあたりまで来たところで、どんよりと曇った空から雨が降り出した。
仕方が無いのでこのヤグラの下に座り込んで雨を凌いでいると、1羽のジョウビタキがやってきて、なんと可愛いことに私と一緒に雨宿りを始めた。
鳥をよく観察していると、種類や個体にもよるけれど、明らかに意図的に雨宿りをするもの、つまり雨に当たるのをあまり好まないものが少なからずいることが分かってくる。羽毛が雨粒を弾くから気にしないのかと思いきや、そうでも無いみたいだ。
このジョウビタキは、軒下に飛んでくるとまずはブルルと体を震わせ羽に乗った水滴を落として、その後入念に羽づくろいを始めた。
オオジュリン(Emberiza schoeniclus pyrrhulina) Reed Bunting
葦原の中、パチパチと鳴る音の主はこの鳥であることが多い。
しかし葦原の中からは他にも沢山の気配がするのだが....。
コホオアカ(Emberiza pusilla) Little Bunting
九州ではコホオアカが越冬している、と知識では知っていても、実際に見つけるとこれほど嬉しいものはない。私にとってコホオアカは離島の鳥だからだ。
このコホオアカは田圃の端に生えたごくわずかな草むらから出てきた。
関東に住む人間からしたら、それこそホオアカが越冬しているのを見るだけでも新鮮なほどで、ここ長崎の干拓地のそこら中の草むらにホオアカがいるのを見ては喜んだ。
ナベヅル(Grus monacha) Hooded Crane
この広大な干拓地には、少数のツルも飛来する。
ナベヅルの他に一回り大きなマナヅルも見られた。
【Nagasaki, Japan(長崎)/13th Jan. 2013】
ナベコウ(Ciconia nigra) Black Stork
九州遠征1日目の福岡の公園では、半日歩き回ったけれど残念ながら目的の鳥は見つからなかった。
夜のうちに福岡から南下した私は、2日目の朝を長崎で迎えた。
ここは広大な農耕地の広がる干拓地。
水気の少ない農耕地が好きな鳥にとっては絶好の環境なだけにタヒバリやヒバリがとても多く、水の無い田を皆で歩いては小虫をついばむ姿がそこかしこで見られた。
とある区画に差し掛かった時、ふと上を見るとすぐ2、3本先の電柱の上にそれはそれは大きな黒い鳥がいることに気がついた私は、あわてて車のエンジンを切った。そう、まさにナベコウが電柱の上に「立っていた」のだ。
ナベコウは電柱の上で入念に羽づくろいをした後、私の乗った車が少しも動かないことを確認するかのように辺りの様子をもう一度うかがい、大きく羽ばたいたかと思うと、私の見ているすぐ横の農耕地へとゆっくり舞い降りた。
ナベコウの羽の黒色部は光の当たり方によっては緑色と紫色の光沢が煌いて見える。
頸のそれは特に顕著に見られ、赤い嘴と足、目の周りとのコントラストが実に美しい。
成鳥が農耕地に降りると、どこからともなく幼鳥が飛んできて、これに合流した。
幼鳥の嘴や足はピンクがかった灰褐色で成鳥のように派手ではないけれど、胸部の体羽先端に出る淡色の斑が和風な華やかさを醸し出している。
静止時にはチョコレート菓子みたいな体羽をマフラーがわりにして嘴をうずめるのがお気に入りの体勢のようだ。
【Nagasaki, Japan(長崎)/13th Jan. 2013】