カワリサンコウチョウ(Terpsiphone paradisi borneensis) Asian Paradise-flycatcher/Male white morph
ボルネオ5日目。
この日はジープで保護区の入り口まで行き、そこから徒歩でロッジまで戻るというコース。
今日も朝からあいにくの雨で、降ったり、止んだりの繰り返し。しかし悪天だからといって部屋でぼんやりしている私ではない。
このジャングルで鳥見をする中で、雨天時でも時々雨が止むような状況ならば、晴天時よりも少ないが鳥は出現することがわかった。鳥達も餌をとらなければお腹をすかせてしまう。彼らは雨の止むほんの少しのタイミングを狙って採餌やさえずりを行うのだ。
さて、歩き始めて朝一番に姿を現したのは胸からの下面がラズベリー色をしたアカエリキヌバネドリの雄。結構な図体の鳥がメインロードを2羽で飛んで横切りブッシュに入ったのを見つけたので、片方は雌だったかもしれない。
雄は数分間、茂った木々の奥にとまって動かずに居た。
しばらく歩いて、今度は混群にヒットした。ジャングルでバードウェーブに当たるほど面白いことは無い。
そうこうしているうちに、私はあっという間に鳥の採餌混群に取り囲まれた。
カザリオウチュウ、ズアカチャイロチメドリ、ズグロチャイロチメドリ、マレーミツユビコゲラ、コシアカキヌバネドリ雄若鳥、ムナフオウギビタキなどをものの数分で一気に見た後には、雨のせいでどんよりしていた気持ちも晴れた。
霧が出ているため視界の悪いのは難点だが、おかげで凄く幻想的な熱帯雨林の林道。
高木の上の方に生る木の実には数種類のヒヨドリが来ていて、ズグロヒヨドリ、アカメチャイロヒヨ、エリゲヒヨドリあたりが辛うじて見える。
「霧さえなければあの群れの中からあと3種はみつけたろうに!」と贅沢なことを言っている間にも、ムジサイチョウの群れ、ルリコノハドリ、オオコノハドリ、オオバンケン、ミカドバトが道を横切って飛ぶ。遠くの地面にキンバトの幼鳥と成鳥が2羽で歩いているのを横目に見ながら真上の木でウロウロするチャムネバンケンモドキに気を配り、ビロードゴジュウカラの奇抜さにド肝を抜かれたと思えば、高い木の枝には思いも寄らぬスマートで美形なカンムリアマツバメが複数羽とまっているのを見つけた。極め付けはBGMにセグロカッコウの「ファファファフォ!」というsongとクロアカヤイロチョウのあの独特の囀りを聴きながら歩く。なんて最高な朝だ!
そうこうしているうちに、キャノピーウォークウェイまで戻ってきた。
朝のゴールデンタイムも終わりに差し掛かり、静けさを取り戻しつつある森。
ルリコノハドリやオオコノハドリが見下ろす樹冠を飛ぶのを見ながら歩いていると、どこかで聞き覚えのあるような、無いような声聞こえてきた。
「ヒホイホイホイホイホイホイ, ヒホイホイホイホイホイホイ....」
“月日星の3つの光”の無い、サンコウチョウに似た声だ。リズムもJapaneseよりだいぶ早い。
声のする方向、木々の間から辛うじて見えるその鳥の全身を見た私は、あっと息を飲んだ。
そこにはカワリサンコウチョウの、しかも成鳥の白色型がいて、今まさに囀っているところだったのだ!
囀っているからこそ分かったことだけれど、他のモナーク類同様、口内はメロンクリーム色。
頭部はJapaneseのように見えるが、胸からの上下面は見事なエンジエルホワイト。良く見ると上背や大雨覆に細やかな縦斑が入り、風切の羽縁は黒で、特に初列は静止時には一様に黒色に見える。
まったく、こういう出逢いがあるからジャングルの鳥見はやめられない。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/2nd Jan, 2013】
サイチョウ(Buceros rhinoceros borneoensis) Rhinoceros Hornbill
昼頃。止まない雨に少し憂鬱になりながら見晴らしの良いレストランの軒下から川を眺めていると、コウオクイワシやコウハシショウビンが何度か通過するのが見えた。
良く見ると川の上を腰のべったり白いチビハリオアマツバメも数羽、飛び回っている。
雨だからといって活動しないのはもったいないと思い始めた私は、カメラと自分にレインコートを着せて外へと繰り出した。
ロッジを出て歩き始めて間もなくのこと。バサバサと音がして見上げると、5-6羽のムジサイチョウの群れがすぐ近くの木の樹冠から飛び立った。ムジサイチョウは他のサイチョウと違い3羽以上の小群になることが多い。
次によく茂ったブッシュから聞こえてきたのは「チチチチチ!!」とけたたましい声。これはカンムリカケスの声だ。しばらく2羽で鳴き交わした後、ブッシュから出てきたかと思うと私の上空を飛び去って行った。頭にアイスのスプーンを突っ立てたようなとんでもない形態だ。
小雨がいよいよ本降りになろうかという頃には分厚い雨雲が押し寄せて、まだ昼間だというのに辺りはにわかに夕方かと思うほどに薄暗くなってしまった。
そんな時、「グゥォッ.....グゥォッ!」と良く通る太い鳴き声が辺りに響き渡った。
段々近付いてくるその声に、「来る、来る、来る!」とはやし立てる私。
そして間もなく、大きな嘴に立派な角を持つ、2羽のサイチョウが道沿いの木の上に姿を現した!
実はライノセラスはサイチョウ類の中でも一番見たかった種類で、私が今回ダナンのような深い森に来たのはこの鳥を見るためでもあった。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】
エンビシキチョウ(Enicurus leschenaulti frontalis) White-crowned Forktail
エンビシキチョウのチャームポイントは何と言ってもその桜色の足である。
実はこれほどに淡色の足の鳥は他にあまり居ないのではないだろうか。
ダナンバレーにはキセキレイも生息しているけれど、エンビシキチョウはそれよりもっと“セキレイ的な”位置づけの鳥。
彼らは道路上という開けた環境では茂った林内よりも餌の虫が見つけやすい場合があることを良く知っていて、毎日こうしてメインロードに出てきては餌を探して歩く。
体型は台湾で見たシロクロヒタキのロングボディ・バージョンといった感じ。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】
ズアオヤイロチョウ(Pitta baudii) Blue-headed Pitta
2013年、元日。例年の私ならば実家へ戻り伊豆沼にでも行こうかと考えているところだが、今年はジワジワと暑い原始の森のど真ん中で新年を迎えた。
ここはマレーシア、ボルネオ島の中央部東の熱帯雨林。今朝は、ここ数日には珍しく雨が降っていない。
キビタイヒヨドリの声をBGMに暗い森へと踏み入ると、タチの悪い吸血昆虫ヌカカが腕じゅうにまとわりついてきた。しかし長袖を着込むと暑くて頭がくらくらしてくるため、仕方なくヌカカに献血してやりながら歩いた。
トレイルを歩いてしばらくすると、十数メートル先から美しく、それでいて少し哀しげにも聞こえる特徴的な声がした。もちろん聞いた途端すぐにビビッときた。ズアオヤイロチョウの声だ。
こいつの声なら私でも真似できる。私が口笛で声を返してやること数秒後....「フィユゥ~」とリアクションがあった!
距離を測りながら、足音を立てずにそっと歩く。相手の声が相当近くに感じる場所まで踏み込み、姿勢を低くして待つ。
「フィユゥ~」.....「フィユゥ~」.....
私とこの鳥の会話が何度か続いた後、真っ暗な林内で何か動いたと思った次の瞬間、鮮烈な空色と高級絨毯のような赤色を併せ持つ、ズアオヤイロチョウのオスが姿を現した。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】
コシラヒゲカンムリアマツバメ(Hemiprocne comata comata) Whiskered Treeswift
コシラヒゲカンムリアマツバメの飛翔形は美しい。
長い翼と尾でしなやかに風を切り、スーッと実に無駄の無い飛び方をするのである。
カンムリアマツバメの仲間は断崖や洞窟に営巣するアマツバメ類と違い、林縁などで餌をとることに長けているため、こうして木にもよくとまる。
飛翔を停止する際には翼を目一杯広げてブレーキをかけた状態でフワッと枝にとまり、そのままほんの数秒間翼を広げたままバランスをとる。
この時に見える高速で飛翔しながら虫を捕食することに特化した細長い翼は、格好いいの一言に尽きる。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/1st Jan, 2013】