油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

生き残った者として。

2021-03-11 12:18:32 | 随筆
 あれから十年、と表現されたら、あなたは
何を思い起こされるでしょう。
 わたしにも、あれから十年といった思いが
あります。
 ひょっとしたら、命を落としていたかもし
れないぞ。他人に起きることは、自分にも起
きるんだ。
 そんな気持ちで、今、暮らしています。
 そんな殊勝なことをそれまで考えたことも
なかったのです。でも、生き残った者として
の務め、みたいなものを感じたりします。
 午後二時四十六分。
 マグニチュード9の地震が、東北地方の太
平洋沖で発生しました。
 しばらくして、岩手、宮城、福島の海岸べ
りを、津波が次々に襲いはじめました。
 太平洋プレートが、アジア大陸のプレート
に沈みこむようにしていたのが、何かの拍子
にボンと音たててはじけた。地球的規模でい
うとそんなことだったのでしょうが、大地の
上で生活しているわたしたち人類にとっては、
千年に一度、未曽有の惨事でした。
 わたしは専門家でなく、上手に言い表すこ
とができません。
 ご気分を害される方もいらっしゃると思い
ます。
 どうかお許しください。
 わが県のおとなりさんが福島県です。
 ですから、わが県でも、数名の方が働いて
いて、倒れてきた天井の下敷きになられたり
して亡くなられました。
 東北沿岸部に住まわれていた方が、あの時
どんな体験をされたか。
 テレビが刻々と、その被害の状況を伝えて
くれました。
 わたしは、家の二階にいて、震度六強の揺
れを体験しました。
 初めは、どこからか、太古のプロントザウ
ルスに似た、そんな巨大な動物が、わたしの
家に向かって駆けて来るように思いました。
 初め小さく、しだいに大きくなってきます。
 間もなく、がたがた、ギシギシと建物が揺
れはじめました。
 わたしは家の二階にいました。
 電気ごたつに足をつっこんだ状態で、パソ
コンに向かっていたのです。
 何が起きるのか。
 地震だろう、とはわかるのですが、あまり
に大きい。
 ひょっとすると、天地がひっくり返ってし
まうのでは、と思ったほどでした。
 階下にある台所でしょう。
 食器棚が倒れ、棚から飛び出した皿が床に
たたきつけられる音が響いて来ます。
 物がどうにかなるのは仕方ない。我が身さ
え大丈夫なら、と思いました。
 わたしにかかわる者の安否を思ったのは揺
れが落ち着いてからでした。
 少したってから、東京電力の発電所が水素
爆発。放射能があたりにまき散らされてしま
いました。
 あの震災で亡くなられた方は、一万人以上。
 被災された方は、いったいどれくらいおら
れることでしょう。
 放射能汚染のせいで、たくさんの方がふる
さとを追われました。
 わたしの家の隣に、南三陸町から来たご夫
婦が引っ越してこられました。
 被害にあわれた方、ひとりひとりのドラマ
が、あの時、始まったのです。
 あの方も、この方も……。
 それぞれの無念を、生々しく、思うことに
しました。
 僭越ながら、わたしはもの書きのはしくれ
です。
 少しでも、善く生きよう。
 それが、わたしのモットーとなりました。 
コメント
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