油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

わっとか、あれっとか……。

2024-10-18 15:36:44 | 随筆
 「生まれてくれてありがとう」
 両腕でしっかりと体を抱えながら、わたしは縁の
できた幼子に声をかけつづけた。

 どれくらい経ったろう。
 いく度目かの来訪のとき、彼女のまなざしが実に
活き活きとしているのに気づいた。

 わたしの発する音声に意味は見いだせないだろう。
 だが、しっかりと聴き入っている様子。

 彼女の小さな頭の中で、何がどんなふうに動いて
いるか知れない。

 可愛さの増したつぶらな瞳に出会ったとき
 「この子はおしゃべりするのが早いぞ」
 と思った。

 何事によらず、人はわっとかあっとか、びっくりす
るべし。

 以来、わたしはそう思うようになった。

 それがもっとも大切じゃなかろうか。

 そんな感情をともなわないところでは、目の前の対
象を、しっかりと究明しようとする
 意気込みが出てこないのではあるまいか。

 たとえば我が家の農業課題。
 土の日が近づくばかりのわが身体。
 それに鞭打って、粉骨砕身の日々だが……。田畑を
耕したり、雑草除去に励んだり。

 ある日の昼下がり、
 「こんにちは。何やってるんですか」
 ふいに女の人らしい声がした。

 草刈りに励んでいたわたしは顔を上げた。
 一目見ても、その人が誰やらわからない。

 髪の毛を薄ピンクに染めている。
 ぎょっとして、わたしは相手の女性が気にするのも
かまわず、彼女の顔を凝視した。

 (あっ、どこそこのだれだれさん……)

 彼女のまなざしからようやく、彼女の正体が知れた。

 「あっ、どこのアメリカじんさんかと思ったよ」
 
 わたしは、彼女が園児時代から知っている。
 今では五十がらみになった女性に、冗談交じりの返
事を投げかけた。

 今までに一度も、かように彼女とフランクにしゃべ
れたことがなかった。

 他人様やら、彼女の子どもたちやら……。
 まわりに人がいては緊張してしまう。

 それに場所が場所。
 だだっ広い田んぼの中だったから良かった。

 「ああ、あの時、小学生だったあの子。彼女は今、ど
うしてる?」

 「……あっ、あの子ね。二番めの子はしっかり勉強し
てね、栃女に行ってくれたんよ」

 心置きなく、彼女もしゃべれたのだろう。

 わたし自身、いつの日か、彼女と忌憚なくおしゃべり
してみたいものだと願っていた。

 念ずれば通ず。
 そのことを意識した瞬間だった。

 わがグランドドーター(孫)の話にもどる。

 おそるおそる両腕に抱えた女の子は、もはや小学校に
通っている。

 小さな口から言葉らしき音が出始まったころ、彼女の
ふた親はびっくりしたらしい。

 何やらわからないが、とにかく、ぺちゃくちゃとやり
だしたらしい。

 わが気持ちやら、願いやら……。
 こちらのさまざまな熱い想いが、まるでほっこりした
毛布の如く、彼女を包み込んだのだろう。

 ましてや他人さまの子たちとなれば、こちらの必死の
想いなくして、かれらのこころを、ゆり動かすことなど
できようはずがない。
 
 もとえ、  
 「なんとかして田んぼや畑と向き合ってはくれまいか」

 熱い想いで、そうわが息子たちに話しかけたい。

 

 
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2 コメント

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Unknown (sunnylake279)
2024-10-18 17:59:24
こんばんは。
お孫さんのご成長、お気持ちがとても暖かくなられたことと思いました。
子どもはどんどん大きくなりますね。
かつての生徒さんと田んぼでお話しされてよかったですよね。
農業はとても大変だと思います。
息子さんが後を継いでくださったらうれしいですよね。
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Unknown (めぐみ)
2024-10-21 16:59:20
こんにちは。

 お孫さんとの微笑ましい関係、更に知り合いの女性との温かな触れ合い、何となく、ほっこりしますね。
 私は長女を嫁がせて一年余りですが、なかなか「ばぁば」になりません。歳を取りたくはないけれど、人はやはり自然の流れの中で生きるのが一番良いと最近は思うようになりました。
 早く可愛らしい小さな生命に出逢いたいものです。
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