卯月になっても、お天気は定まらない。
時おり、冷気と暖気がはげしくせめぎあう。
もう二十年ちかく使っている十五馬力の耕運機。
ギヤがうまく入らなかったり、フロントライトが点灯しなかったりで、
そろそろ人間ドックならぬ、オーバーホールをすべき時期に来ている。
「おれとおんなじだんべな、お前さんも」
右ハンドルをポンポンたたき、
「今までご苦労さん」
と、にこにこ顔で声かける。
時刻は午後二時をまわった。
杉の花粉が飛び始めたらしく、山々がかすむ。
スピードを低速にし、後ろにひかえる土かき回し器の留め金をはずす。
田んぼの表面につくまで、それを下ろしてから、ゆっくりネイルをま
わす。
クラッチを踏みこみ、ギヤをローに入れる。
それからそろそろと左足をクラッチから離していく。
耕運機が前にすすみだし、掘り返された地面に、小鳥やカラスが舞い
下りては、むりやり起こされて寝ぼけまなこの虫たちをついばむ。
古希をいくつも過ぎ、もうそろそろ、この仕事を息子に任せようと思
うが、
「父ちゃん、おれ、やらないからね」
と、つれない。
町はずれの工業団地に勤めて長い。
一時間働いたら、いくらいくらもらえる。
手っ取り早く稼げる仕事が一番のようだ。
三年育てて、一人前?
やっとこさ、市場に出ていけるこんにゃく。
ビニルハウスを組み立て、土を耕起する。
中腰じゃ腰が痛むと、うねを立てたりの工夫がいるイチゴ栽培。
それらは若者には、あまり魅力的じゃないようだ。
狭いセブ(面積)で水稲を育て、収穫しようとすると、一家で食べる
分にはこと欠かないけれども、必要経費を考えると、どこかで米を購入
したほうが安上がり。
なにしろ、この間、田植え機も脱穀機も、さまざまな理由で倉庫から
すべて消え失せた。
たとえ、改めて買ったとしても、採算がつくかといえば、首をひねら
ざるをえない。
古い乾燥機があるが、義父から使い方を教わってなかった。
お父さんは七十がらみで逝かれた。
もっとたくさんのことを学んでおけばよかったと、悔やむことしきり
である。
戦乱に苦しむウクライナの人々を想う。
広々とした穀倉地帯が目に浮かぶ。
本来なら、種まきの時期が近づき、農夫たちは準備に余念がなかった
はずである。
突如として、ロシアがウクライナ本土に侵略をはじめた。
八年前、彼らは身勝手な理由をつけて、クリミア半島を武力で制圧し
ていた。
いかなる動機があるにせよ、他国は他国。
蹂躙するのは、強盗に等しい。
無理がとおれば、道理が引っ込む。
そんな所業が許されるはずがないし、決して許してはならない。
当然ながら、ウクライナの民は決然として祖国防衛のために立ち上
がった。
ロシアは国際連合の常任理事国ではないか。
ウクライナ大統領に、国連はもはや、機能していないと批判されて
もぐうの音も出ない。
振りかえって、我が国をみる。
先だっての大戦終了直前、ロシアが日ソ不可侵条約を一方的にやぶり、
千島列島につづく四島を占拠した。
このたび、そこでロシア軍の軍事演習が開始されたと聞く。
ウクライナの災難を、決して対岸の火事とみることはできまい。
いつなんどき、ウクライナと同じ運命が、われらを待ち受けているや
しれないのである。
「金は、金。食えやしないぞ。それよりか、田んぼや畑で野菜をつく
れ、小麦をな、うんとたくさん作れ」
賃労働いっぺんとうの息子に言いつのる。
「プーチンさん、すでに命脈の尽きたソ連を思うのはやめましょう。
それよりも、たまに、おれと野良仕事をやりませんか。精神衛生上、とっ
てもいいですよ」
むかしも昔、乱世の時代に老子は生きた。
無為自然、無用の用……。
殺されぬよう、したたかに生きる。
老子に学ぶべきことがたくさんあるように思える。
時おり、冷気と暖気がはげしくせめぎあう。
もう二十年ちかく使っている十五馬力の耕運機。
ギヤがうまく入らなかったり、フロントライトが点灯しなかったりで、
そろそろ人間ドックならぬ、オーバーホールをすべき時期に来ている。
「おれとおんなじだんべな、お前さんも」
右ハンドルをポンポンたたき、
「今までご苦労さん」
と、にこにこ顔で声かける。
時刻は午後二時をまわった。
杉の花粉が飛び始めたらしく、山々がかすむ。
スピードを低速にし、後ろにひかえる土かき回し器の留め金をはずす。
田んぼの表面につくまで、それを下ろしてから、ゆっくりネイルをま
わす。
クラッチを踏みこみ、ギヤをローに入れる。
それからそろそろと左足をクラッチから離していく。
耕運機が前にすすみだし、掘り返された地面に、小鳥やカラスが舞い
下りては、むりやり起こされて寝ぼけまなこの虫たちをついばむ。
古希をいくつも過ぎ、もうそろそろ、この仕事を息子に任せようと思
うが、
「父ちゃん、おれ、やらないからね」
と、つれない。
町はずれの工業団地に勤めて長い。
一時間働いたら、いくらいくらもらえる。
手っ取り早く稼げる仕事が一番のようだ。
三年育てて、一人前?
やっとこさ、市場に出ていけるこんにゃく。
ビニルハウスを組み立て、土を耕起する。
中腰じゃ腰が痛むと、うねを立てたりの工夫がいるイチゴ栽培。
それらは若者には、あまり魅力的じゃないようだ。
狭いセブ(面積)で水稲を育て、収穫しようとすると、一家で食べる
分にはこと欠かないけれども、必要経費を考えると、どこかで米を購入
したほうが安上がり。
なにしろ、この間、田植え機も脱穀機も、さまざまな理由で倉庫から
すべて消え失せた。
たとえ、改めて買ったとしても、採算がつくかといえば、首をひねら
ざるをえない。
古い乾燥機があるが、義父から使い方を教わってなかった。
お父さんは七十がらみで逝かれた。
もっとたくさんのことを学んでおけばよかったと、悔やむことしきり
である。
戦乱に苦しむウクライナの人々を想う。
広々とした穀倉地帯が目に浮かぶ。
本来なら、種まきの時期が近づき、農夫たちは準備に余念がなかった
はずである。
突如として、ロシアがウクライナ本土に侵略をはじめた。
八年前、彼らは身勝手な理由をつけて、クリミア半島を武力で制圧し
ていた。
いかなる動機があるにせよ、他国は他国。
蹂躙するのは、強盗に等しい。
無理がとおれば、道理が引っ込む。
そんな所業が許されるはずがないし、決して許してはならない。
当然ながら、ウクライナの民は決然として祖国防衛のために立ち上
がった。
ロシアは国際連合の常任理事国ではないか。
ウクライナ大統領に、国連はもはや、機能していないと批判されて
もぐうの音も出ない。
振りかえって、我が国をみる。
先だっての大戦終了直前、ロシアが日ソ不可侵条約を一方的にやぶり、
千島列島につづく四島を占拠した。
このたび、そこでロシア軍の軍事演習が開始されたと聞く。
ウクライナの災難を、決して対岸の火事とみることはできまい。
いつなんどき、ウクライナと同じ運命が、われらを待ち受けているや
しれないのである。
「金は、金。食えやしないぞ。それよりか、田んぼや畑で野菜をつく
れ、小麦をな、うんとたくさん作れ」
賃労働いっぺんとうの息子に言いつのる。
「プーチンさん、すでに命脈の尽きたソ連を思うのはやめましょう。
それよりも、たまに、おれと野良仕事をやりませんか。精神衛生上、とっ
てもいいですよ」
むかしも昔、乱世の時代に老子は生きた。
無為自然、無用の用……。
殺されぬよう、したたかに生きる。
老子に学ぶべきことがたくさんあるように思える。
農業はすごく大切でよい仕事だと思います。
純粋に生きることと繋がっているからです。
いろいろ大変なこともありますが、育てて収穫する喜びはとても価値あることだと思いました。
プーチンさんにぜひ農業をしてもらいたいです。
そして、生きることの本当の意味を知ってほしいです。
一日も早く、自分の愚かさに気づいてくれることを祈っています。