ある晴れた春の日の午後。
大杉村の小谷川のほとりは、子どもたちで
にぎわっています。
網を手に蝶を追いかける子がいます。
れんげや青い小さな花たちが、川の土手を
かざっています。
つくしんぼうをつんでいる子もいました。
水際でぼう竿をもち、釣りにむちゅうな男
の子もいました。
針の先にはごはん粒が付けてあります。
男の子は、うきの先を、しんぼう強く見つ
めています。
「どうだね、坊や。つれたかい」
杖をついた、しらが頭のお年寄りが声をか
けました。
「うん、一匹だけ」
バケツの中で、小さな魚がはねまわってい
ます。
まるで空から虹が下りてきたようです。
「きれいな魚だね。名前はなんていうの」
「タナゴっていうんだ」
「へえタナゴか。おもしろい名じゃな。う
うう、ごっごっほん」
「おじいちゃん、どうしたの」
「ときどきな、せきが出て、止まらなくな
るんじゃ」
「ぼくが背中をさすってあげる」
男の子が立ちあがり、老人の背をなではじ
めました。
「おまえはいい子だな。いくつになった?」
「六さい」
「なまえは?」
「ゆうじ」
「いい名じゃ」
老人はこくりこくりとかぶりをふり出しま
した。
男の子が老人の背を小さな右手でポンポン
とたたきますと、
「だいぶ気持ちが良くなった。もういいぞ」
うれしそうに言いました。
まもなく、風が吹き出しました。
波のせいでうきが見えなくなりました。
「あああ、もうだめだ。釣れないや。ぼく
もう帰るけど、おじいちゃんどうするの」
「どれ、じゃあ、わしも」
「おじいちゃん、おうちはどこなの」
「わしはな、ほうれ、向こうに杉のなみ木
が見えるじゃろう」
男の子は、きょろきょろと、あたりを見ま
わしますが、発見できません。
「ぼく、ちっちゃいからだめなんだ」
かなしげに、顔を下に向けました。
老人は、村では名の知れた杉の大道を、指
さしていました。
誰がいつうえたか、わかりません。
縦に二列にはてしなくつづき、となり村に
入ってもまだまだつづきました。
杉と杉の間を、車がぶうぶう煙をふき出し
ながらとおっていました。
大杉村の小谷川のほとりは、子どもたちで
にぎわっています。
網を手に蝶を追いかける子がいます。
れんげや青い小さな花たちが、川の土手を
かざっています。
つくしんぼうをつんでいる子もいました。
水際でぼう竿をもち、釣りにむちゅうな男
の子もいました。
針の先にはごはん粒が付けてあります。
男の子は、うきの先を、しんぼう強く見つ
めています。
「どうだね、坊や。つれたかい」
杖をついた、しらが頭のお年寄りが声をか
けました。
「うん、一匹だけ」
バケツの中で、小さな魚がはねまわってい
ます。
まるで空から虹が下りてきたようです。
「きれいな魚だね。名前はなんていうの」
「タナゴっていうんだ」
「へえタナゴか。おもしろい名じゃな。う
うう、ごっごっほん」
「おじいちゃん、どうしたの」
「ときどきな、せきが出て、止まらなくな
るんじゃ」
「ぼくが背中をさすってあげる」
男の子が立ちあがり、老人の背をなではじ
めました。
「おまえはいい子だな。いくつになった?」
「六さい」
「なまえは?」
「ゆうじ」
「いい名じゃ」
老人はこくりこくりとかぶりをふり出しま
した。
男の子が老人の背を小さな右手でポンポン
とたたきますと、
「だいぶ気持ちが良くなった。もういいぞ」
うれしそうに言いました。
まもなく、風が吹き出しました。
波のせいでうきが見えなくなりました。
「あああ、もうだめだ。釣れないや。ぼく
もう帰るけど、おじいちゃんどうするの」
「どれ、じゃあ、わしも」
「おじいちゃん、おうちはどこなの」
「わしはな、ほうれ、向こうに杉のなみ木
が見えるじゃろう」
男の子は、きょろきょろと、あたりを見ま
わしますが、発見できません。
「ぼく、ちっちゃいからだめなんだ」
かなしげに、顔を下に向けました。
老人は、村では名の知れた杉の大道を、指
さしていました。
誰がいつうえたか、わかりません。
縦に二列にはてしなくつづき、となり村に
入ってもまだまだつづきました。
杉と杉の間を、車がぶうぶう煙をふき出し
ながらとおっていました。