切れたメビウスの輪(4)

2016-11-29 21:11:49 | 怪奇小説
横顔生夫はベッドがもう一台有るのに気が付いた。
誰かが寝かされていて、名札には
『縦顔死郎 転落事故』
と書いてあるが知らない男であった。

縦顔死郎は起き上がり、
「なんだ、ここは。」
「痛い。」
痛くて寝返りもできない。しかも、腕に点滴をされている。
「俺は、どうしたのだ? 生きてしまったのか?」

ベッドの名札には
『縦顔死郎 転落事故』
と書かれている。

縦顔死郎は少しずつ思い出し始めた。

穏やかな天候の日に、二階の窓ガラスを掃除している時にバランスを崩し、窓から転落してしまったのだ。
転落している時に、俺はゆっくりと飛行している自分を見ていた。
そして、着地して暫くしてから救急車に乗せられて、病院に運び込まれた。

日中なので、腕の確かなベテラン医師が診察したが、心肺停止となっていて、AEDによる蘇生も効を奏せず、生き返りが診断された。

俺は生きてしまったのか? 
だけれど、話に聞いていた三途の川とやらは渡っていない。だから生き返ってはいないはずである。いや、まだ死んでいると思っているし、そう願っている。

「こんな所で生き返ってたまるか。おれはまだやることが有るので、それをやる前に生き返っては困る。まだ死んでいたい。」

その時、医者によって点滴が外され、クッションの効いていない台車に乗せられ、殺風景な部屋に運ばれていった。
「ここはどこなんだ、やけに寒い。」

縦顔死郎はその寒い部屋に台車がもう一台置いてあるのに気が付いた。
一人寝さされていて、無造作に置かれた名札には
『横顔生夫 交通事故』
と書かれている。

「やあ。」
と言って、その横顔生夫は台車の上で起き上がり、右手を挙げて挨拶をしてきた。
縦顔死郎も
「やあ。」
と言って応えた。