第六章 経営権
しばらくして、おかみさんが体調を崩したが、家族のいないおかみさんに代わって治子が温泉宿を切盛りしていた。
しかし、ひなびた湯治場の温泉宿は相変わらず経営が厳しかった。
白石らが帰ってから1ヶ月が過ぎたある日、おかみさんのもとに臨時株主総会の招集通知書が届き、決議する議案として、
第一号議案 温泉宿の取り壊しと除却
第二号議案 株式発行による増資
第三号議案 近隣の山林の取得
第四号議案 リゾート施設の建設
第五号議案 取締役の解任
が記載されていた。
そして、おかみさんは商社の本社会議室で開催される臨時株主総会に出席したが、おかみさん以外は大株主の商社と、少数株主の委任状を手にした商社の社員が有給休暇を取って出席していた。
各議案は簡単な説明のあと採決を行われたが、全て賛成多数で可決され、おかみさんは取締役を解任されたのである。
そして、決議された議案通りリゾート施設建設がスタートされることとなった。
白石は、いつも商社の中に有る観光会社の本社で実務を取り仕切っていたが、久し振りに現地の温泉宿へ出向いて取り壊しの進捗状況を把握することにして、朝早く出発した。
そして、駅には現地常駐の部下と工事関係者が揃って出迎え、温泉宿ではおかみさんが白石を出迎えた。
「あれっ、何をしているんだい、あんたはもう経営には関係ないんだから来てもらっては困るよ。」
と、おかみさんに対して高圧的な態度で臨んだ。
「ええ、分かっていますが、ここは私が手塩にかけて守ってきた温泉宿なのですよ。」
「あんたの古い経営手法だからこうなったのですよ。我社は一大リゾートにして、この地を蘇らせて見せますよ。」
「白石さん。」
治子は変わってしまった白石に思わず声を掛けてしまった。
その時、治子に寄り添っていた鹿が歯をむき出しにして
「ギュルギュル、ギュ~イ。ギュルギュル、ギュ~イ。」
と威嚇した。
「あなた変わったわね。」
「仕事で勝ち抜くためには仕方ないさ。
負ける方が悪いんだよ。
ところで君は、まだ副支配人としてここで働く気にはならないのかね、僕が君を雇ってあげても良いんだよ。そ
うすると昔のように、仕事も一緒にできて、私がここに来た時の夜は一緒に居られるよ。」
「いいえ、結構です。」
「どうぞ、ご勝手に。」
その時、再び鹿が歯をむき出しにして
「ギュルギュル、ギュ~イ。ギュルギュル、ギュ~イ。」
と激しく吠え立てて白石にとびかかろうとしたので、白石は近くに有った木の枝を振り回して鹿を追い払った。
しばらくして、おかみさんが体調を崩したが、家族のいないおかみさんに代わって治子が温泉宿を切盛りしていた。
しかし、ひなびた湯治場の温泉宿は相変わらず経営が厳しかった。
白石らが帰ってから1ヶ月が過ぎたある日、おかみさんのもとに臨時株主総会の招集通知書が届き、決議する議案として、
第一号議案 温泉宿の取り壊しと除却
第二号議案 株式発行による増資
第三号議案 近隣の山林の取得
第四号議案 リゾート施設の建設
第五号議案 取締役の解任
が記載されていた。
そして、おかみさんは商社の本社会議室で開催される臨時株主総会に出席したが、おかみさん以外は大株主の商社と、少数株主の委任状を手にした商社の社員が有給休暇を取って出席していた。
各議案は簡単な説明のあと採決を行われたが、全て賛成多数で可決され、おかみさんは取締役を解任されたのである。
そして、決議された議案通りリゾート施設建設がスタートされることとなった。
白石は、いつも商社の中に有る観光会社の本社で実務を取り仕切っていたが、久し振りに現地の温泉宿へ出向いて取り壊しの進捗状況を把握することにして、朝早く出発した。
そして、駅には現地常駐の部下と工事関係者が揃って出迎え、温泉宿ではおかみさんが白石を出迎えた。
「あれっ、何をしているんだい、あんたはもう経営には関係ないんだから来てもらっては困るよ。」
と、おかみさんに対して高圧的な態度で臨んだ。
「ええ、分かっていますが、ここは私が手塩にかけて守ってきた温泉宿なのですよ。」
「あんたの古い経営手法だからこうなったのですよ。我社は一大リゾートにして、この地を蘇らせて見せますよ。」
「白石さん。」
治子は変わってしまった白石に思わず声を掛けてしまった。
その時、治子に寄り添っていた鹿が歯をむき出しにして
「ギュルギュル、ギュ~イ。ギュルギュル、ギュ~イ。」
と威嚇した。
「あなた変わったわね。」
「仕事で勝ち抜くためには仕方ないさ。
負ける方が悪いんだよ。
ところで君は、まだ副支配人としてここで働く気にはならないのかね、僕が君を雇ってあげても良いんだよ。そ
うすると昔のように、仕事も一緒にできて、私がここに来た時の夜は一緒に居られるよ。」
「いいえ、結構です。」
「どうぞ、ご勝手に。」
その時、再び鹿が歯をむき出しにして
「ギュルギュル、ギュ~イ。ギュルギュル、ギュ~イ。」
と激しく吠え立てて白石にとびかかろうとしたので、白石は近くに有った木の枝を振り回して鹿を追い払った。