ぼく(Ⅰ)

2016-07-26 21:34:15 | 童話
今、産まれて十日目のぼくは、お母さんに抱っこをしてもらって幸せです。
あれっ、お父さんとお姉ちゃんとお兄ちゃんが居ないよ。
そうか、今日は、お休みの日ではないんだ。

お父さんは電車に乗って会社へ行ったのかな?

ぼくは、生まれてからまだ外へ出たことが無いので電車に乗ったことがありません。
だけれど、お母さんのお腹の中に居る時にお母さんと一緒に電車に乗ったことは覚えているんだ。
電車はゴトンゴトンと楽しかったよ。

お姉ちゃんは自転車に乗って中学校へ行ったのかな?
ぼくがお母さんのお腹の中に居る時は転ぶと危ないので、お母さんは自転車に乗らなかったんだ。

だから、ぼくは自転車は知りません。

お兄ちゃんは歩いて小学校へ行ったのかな?
ぼくもお母さんのお腹の中に居る時に、お母さんといっぱい歩いたよ。
歩くのも楽しいよね。

だけれど、お母さんが歩いていない時に、お腹の中のぼくだけが歩いて、お母さんのお腹を中からギュ~と押したことが有ったんだ。
その時、お母さんは『あらあらっ。』と言っていたんだ。

ぼくがドンドン大きくなっていくと、お母さんのお腹の右側や左側がニュー、ニューと膨らんで、そのたびにお母さんが
『あらあらっ。』、
『あらあらっ。』
と言っているのを、ぼくはお腹の中で聞いていたんだけれど、楽しかったよ。

僕のお仕事(3)

2016-07-25 21:28:48 | 童話
ある日、僕は保育所でパン屋さんの絵本を見つけました。
まぁ~るいパンや長細いパン、やわらかいパンやかたいパン、甘いパンやからいパン、たくさんの種類のパンがあるんだね。

そうだ、僕はパンが大好きだからパン屋さんになろう。
パン屋さんは朝早く起きてパンになる粉をまぜてオーブンに入れて焼くと僕の大好きなおいしいパンができあがるんだね。

僕が作ったパンは、おいしいパンだからお店で売る前に僕が食べてしまうかもしれない。
『お店で売るパンは僕が全部食べてしまいました。みなさんのパンはこれから作りますので、パンを買う人はチョット待ってください。』
『はいっ、おいしいパンがたくさん焼けました。みなさん、順番に並んでください。はいっ、ありがとうございます。』

『何をして遊んでいるの?』
と保育所の先生が聞いたので、僕は
『お巡りさんと、電車の運転手さんと、学校の先生と、新幹線の運転手さんと、パン屋さんだよ。』
と言いました。
すると先生は
『あらっ、たくさんなっているのね。』
と言いました。
『うん、順番にいっぱいなるんだよ。』
『えらいわね。』

僕は先生に
『僕も保育所の先生になってもいいかなぁ?』
『ええ、いいわよ。みんな良い子だから、保育所の先生は楽しいわよ。』
『よしっ、僕も保育所の先生になる。』

そして、僕は先生のうしろに付いていって、先生と同じ事をしました。
『お外で遊んできたら、手をよく洗いましょうね。』
『先生が本を読んであげる時は静かにしていてね。』
『順番に並んでね。』
『大きな声でおへんじをしてね。』

やったぁ、僕は保育所の先生になれたんだ。
うれしいなぁ、うれしいなぁ。
『ええ、りっぱな保育所の先生だわね。』

だけれど、僕はお父さんとお母さんのお仕事は知りません、
保育所の先生のように、お父さんやお母さんのうしろについて歩くことができるといいのになぁと思っています。

おしまい

僕のお仕事(2)

2016-07-24 09:32:45 | 童話
電気屋さんもいいなぁ。
高い電柱に登ってお仕事をするんだ。
みんなの家に電気がいかないとテレビでマンガが見られないからね。
『すぐ停電の修理が終ります。そうしたらテレビでマンガが見られるからね。』

お医者さんはもっといいなぁ。
病気の人を治してあげられるから。
僕もカゼをひいた時にお薬をもらって熱が下がったし、ケガをした時もお薬を塗ってもらって治ったからね。
『病院に来た人はみんな体温をはかってください。』
『いたい所はどこですか?』

学校の先生もいいね。
『みんな並んでください。今日は絵本のお勉強をします。みんなで順番に読みましょうね。そして、明日は運動会の練習をしますので、みんな体操服を持ってきてください。』

あっ、電車の運転手さんを忘れていた。

そうだ、今日はお巡りさんで、明日は学校の先生で、電車の運転手さんは学校の先生の次にしよう。

そして、新幹線の運転手さんは次の次にしよう。
電車と新幹線のお客さんは、僕が運転手さんになるまで少し待っていてください。

僕のお仕事(Ⅰ)

2016-07-23 09:31:09 | 童話
僕のお父さんは会社へ行ってお仕事をしています。
お母さんも、僕を保育所へ送って行ってから会社へ行きます。
みんな会社でお仕事をしています。

そして、僕も保育所でお仕事をします。
僕は、昨日は消防士さんでした。
保育所の赤い自動車に乗って、ウ~ン、カンカン、ウ~ン、カンカンと走りました。

今日はお巡りさんがいいなぁ。
白い色と黒い色に塗ったパトカーに乗って、
『みなさん、交通事故にあわないようにしましょう。』
と言って走ろう。

郵便屋さんもいいなぁ。
オートバイで郵便を待っている人の家にいっぱい配達するんだ。
『おまちどうさま、郵便で~す。』
みんな郵便を待っているので喜ばれるんだ。

飛べない妖精(3)

2016-07-22 10:22:43 | 童話
ある日、妖精の私が歩いていると、お母さんが子供を連れて歩いていて、その子供が持っていたボールがコロコロと転がって行き、子供がボールを追いかけて走って行ったのです。
その時、自動車が走って来て子供にぶつかりそうになったのです。
私は飛べないので時間を止めて、子供を抱えてお母さんの手に渡した。

『危なかったわね、急に走ったら危ないでしょ。だけど、誰が助けてくれたのかなぁ?』

『それは私よ。』
と小さくささやいた。
そして、
『気を付けてね。』
と小さな声で付け加えた。

妖精の私が公園にいる時に、男の子が二人でケンカを始めてしまった。
大きくなったら野球選手になるか、サッカー選手になるかでケンカを始めてしまったのでした。

私は、二人の男の子にソッと息を吹き掛けました。
そうすると、二人は何でケンカをしていたのか忘れて、また仲良く遊び始めたのです。

子供のケンカは、すぐに仲直りさせる事ができるが、国同士の大人のケンカの戦争は、妖精の私にも一人では力が足りない。

どうしょう?
そうだわ、私の歌声でみんなをやさしい心にしてあげればいいんだわ。
でも、世界には何十億もの人がいて、一人ではできないので、みんなを呼ぼう。
世界の平和のために、私の歌声を世界に届けよう。

『ねぇみんな、やさしい心になりましょう、静かな心になりましょう、そして、素晴らしい世界にしましよう。そうすると、妖精は私だけではなく、みんなが妖精になれるのよ、飛べない妖精になれるのよ。
私は、みんなが妖精になれるのを、何百年でも待っているわ。』

飛べない妖精は、澄んだ歌声でみんなが妖精の心を持つのを待ちながら、いつまでも歌い続けているのです。

              おしまい