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山の上のロックの永~い旅(6)

2017-06-15 21:19:51 | 童話
『あれっ、あっちこっちの角が取れちゃったので、段々丸くなってきた。』
そして、取れた角の小石も川の中でコロコロと転がっていた。
『お~い、みんな大丈夫かい?』
『大丈夫だよ。一緒に転がっているからね。』
『だけど、君達の方が小さいから転がるのが速いね。』

段々川が広くなって、魚も多くなってきた。人間が川下りする船とも出会った。
『僕はロック、君達は?』
『ぼくはコイ。』
『わたしはアユ。』
『ぼくはイワナで、あそこにウナギも居るよ。』
『ロックはどこへ行くの。』
『海へ行くんだよ。』
『海はまだ遠いよ。』
『この川を転がって行くと海へ行けるよね。』
『うん、海の少し前まで行った事があるけれど、遠いよ。』
『ありがとう、頑張って行ってくるからね。』

そして、何年か転がって海の入口にやって来た。
『水が少し塩辛くなったね。』
遠くに大きな船が見えてきた。
『海だ、海だ、海に着いたのだ。』
僕の上を大きな波がザブン、ザブン。
『ここは、波でユラユラと楽しいな。』
『やぁ、僕たちよりも前に来た石達もみんな丸くなっているね。』

『お父さん、お母さん、僕は海に着いたよ。お姉ちゃん、弟、海で待っているからね。気を付けて来るんだよ。』

何年もかかったけれど楽しい旅だったと、僕は思った。

    おしまい

山の上のロックの永~い旅(5)

2017-06-14 21:26:16 | 童話
何年か経った時に台風が来た。
山に沢山の雨が降り、小川の水量が増えて、僕はまた動き出した。
そして、もっと広い川まで滑って来た時、急に水の流れが激しくなってきた。
あっちこっちぶつけながらすこしずつ進んだ。

その時、前の方の川岸や木が見えなくなり、空が見えてきて、急に体がふぁっと浮かんだ。
次の一瞬、下へ下へと体が落ちて行った。
それは、お父さんやお母さんから聞いていた滝だ。
初めて見たし、初めて下へ落ちて行った。
ドボーン、ドスン。僕は滝壺に落ちてお尻をぶつけた。
その衝撃で体が半分くらいになってしまい、滝壺から飛び出した。
そして、僕の体の仲間が沢山できたのだ。
『みんな大丈夫かい?』
『大丈夫だよ。』
『大丈夫。』
『元気だよ。』
『一緒に居るよ。』
『僕も元気だよ。』
『良かった、良かった。みんな無事でよかった。』
『この滝壺から出るのに何年かかるかわからないけれど、みんなで海に向かっていこうね。』

今度は広い川の中なので、僕は転がりだして、大きな岩にぶつかった。
『痛いっ。岩にぶつかったので、頭とお尻の角が取れちゃった。』
僕は次々と岩にぶつかりながら転がって行った。

山の上のロックの永~い旅(4)

2017-06-13 21:28:37 | 童話
『いっぱい来たね。すごい、すごい。』
『この飛んでいる中にお父さんとお母さんも居るよ。』
『こうしてお父さんやお母さんとお話しをしているの?』
『そうだよ、他のトンボともお話しをしているんだよ。』
『それなら寂しくないよね。』
『うん。』

『ここには、ヤゴ君以外は居ないの?』
『沢山居るよ。アメンボやタガメ、そしてゲンゴロウも居るよ。今はみんな出かけているのかな。』
『帰って来たら教えてよ。』
『いいよ。』
『あっ、小鳥が来た。』

すぐ近くでウグイスが鳴き始めた。
『僕の名前はロック、いい声だね。』
『褒めてくれてありがとう。』
『いつも、こんなにいい声で鳴いているの。』
『違うよ、お嫁さんを探す時だけこうして鳴くんだよ。』
『今、君は鳴いているからお嫁さんはまだなんだね。』
『うん、まだ鳴き方が上手くないから仕方ないんだ。』
『僕は上手いと思うけれどね。』
『みんな、もっと上手いよ。』
『頑張ってね。そしてお嫁さんが見つかったら教えてよ。』
『少し時間がかかるよ。』
『暫くここに居るからいいよ。』
『素敵なお嫁さんが見つかるといいね。』
『もっともっと頑張るよ。』

『応援しているからね。お嫁さんが見つかったらプレゼントは何がいい?』
『そうだね、玄関に飾る花輪の飾りがいいかなぁ。』
『いいよ、僕は作れないけれど、リス君に作って貰おう。』
『リス君は手が器用だから、きっと素晴らしい花飾りができると思うね。』
『うん、楽しみにしているね。』

山の上のロックの永~い旅(3)

2017-06-12 21:26:58 | 童話
何年か経った後の大雨で僕は少し動き出したのを感じた。
ズズッ、ズズッと松の木のおじさんの根元が少しずつ遠くなってきだした。
『松の木のおじさん、僕は海に向って進み始めたみたいだ。おじさん、また今度ね。』
『あいょ、元気でなぁ。』
『兎さんや友達のみんなも元気でね。』
『バイバ~イ。』
『みんな、みんな、楽しく遊んでくれてありがとう。バイバ~イ。』
『みんな見えなくなってしまった。』

僕はズズッ、ズズッと森の中を滑って行った。
今度は転がらないので楽だったが、ゆっくりと時間をかけて移動して行った。
ズズッ、ズズッとゆっくりと滑っているので、蛇やネズミやリスたちにも追い越されたが、ず~と動いて行った。

暫くすると水の流れる音が聞こえ始めた。
『あっ、冷たい。』
僕のお尻と背中が水の中入った。
『ここは小川だ。』
僕はきれいな水が流れている小川の中で止った。
山の上からの雪溶け水が流れ込んでいる場所なので水が少なく、魚は居なかった。

『あっ、トンボの子供のヤゴが居る。僕の名前はロック、ヤゴ君は冷たくないの?』
『ずっと水の中に居るから冷たくないよ。』
『ここは水も空気も綺麗で気持ちがいいね?』『そうだね、山の上のように寒くもないしね。』
『僕は山の頂上から転がって来たんだけれど、ヤゴ君はどうして山の頂上の事を知っているの?』
『僕は行った事は無いけれど、僕のお父さんとお母さんが言っていたよ。』
『お父さんとお母さんは一緒じゃないの。』『僕たちトンボは、お母さんが水の中に卵を産んだら飛んで行くから、ヤゴの兄弟だけで暮らすんだよ。』
『寂しくないの?』
『兄弟がいっぱい居るから寂しくないよ。』
『ヤゴ君はいつトンボになるの?』
『来年かな。』
『それまで僕とここに居られるね。』
『トンボになって飛んで行ったみんなも、呼べば遊びに来てくれるよ。』
『では、ヤゴ君、トンボのみんなを呼んで、一緒に遊ぼうよ。』
『じゃ、これからみんなを呼ぶね。』
ヤゴは水の中で短い羽根を震わせた。そうして水面が震えるのを見たトンボが集まって来た。

山の上のロックの永~い旅(2)

2017-06-11 09:06:53 | 童話
目が回ったのが直ったので、僕は何にぶつかって止ったのか確かめた。
松だ、やっと大きな松の木の根元に居るのが分かった。

『僕はロックという名前です。松の木のおじさん、大丈夫ですか?』
『ああっ、大丈夫だよ。お前のスビードが遅くなっていたので、わしでも止められたよ。もっと速いとダメだったけれどね。』
『ありがとう、助かった。目がグルグル回って大変だった。』
『わしは三百年ここに居るけれど、お前のように転がって来る石を何度か見たよ。』
『そうなの、みんな転がるのが上手だった?』
『ああっ、みんな上手いもんだ。ところで、お前はどこへ行くのだい?』
『僕はね、これから海へ行くんだ。』
『海は遠いよ。』
『海は遠いと聞いていたけれど、そんなに遠いの?』
『ああっ、遠いよ。何年かかるかなぁ。いやいや、何百年かなぁ。』
『そうか、頑張らないといけないなぁ。』
『松の木のおじさん、少しここで休憩させてね。』
『ああっいいよ、好きなだけ居なさい。』

『あっ、何か居る。やぁ、さっきのウサギさんだ。僕の名前はロック、さっきは驚かせてゴメンね。』
ウサギは
『お腹の上に乗っていい?』
『ああっ、いいよ。僕は暫くここに居るからお話しをしようよ。』
『転がって来たばかりだからお腹にも苔がまだ付いていないね。』
『うん、転がっている時に苔が全部取れてしまったんだ。』
『そんなに転がって来たの?』
『うん、あの高い山の頂上から転がって来たんだ。』
『目が回ったでしょ。』
『うん、ぐるんぐるん回って、上か下か、右か左か分かんなかった。』
『大丈夫?』
『もう直ったから大丈夫だよ。』

『ウサギさんは近くに住んでるの?』
『ここから少し上に行った所の穴に住んでいるの。』
『僕が転がって、君の住んでる穴は大丈夫だった?』
『ええ、大丈夫だったわ。これから何処へ行くの?』
『海へ行くんだよ。』
『海って遠いの?』
『僕も知らないけれど、お父さんが遠いって言っていたよ。』
『私も行ってみたいけれど、そんなに遠いのなら一緒に行けないわね。』
『そうだね。僕だけで行ってくるよ。』

僕は松の木のおじさんの根元で暫く過ごした。
その間、ウサギがキツネやムササビ達の友達を沢山連れて来て、毎日楽しく過ごしていた。