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【沖縄】 宜野湾市長選で現職苦戦 安倍官邸のディズニー誘致が裏目(日刊ゲンダイ)

2016-01-18 22:11:32 | ご案内

日刊ゲンダイ http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/173563/1より転載

宜野湾市長選で現職苦戦 安倍官邸のディズニー誘致が裏目

2016年1月18日

新人の志村候補(左)と現職の佐喜真候補(C)日刊ゲンダイ
     新人の志村候補(左)と現職の佐喜真候補(C)日刊ゲンダイ


 夏の参院選の“前哨戦”である沖縄・宜野湾市長選(24日投開票)が17日、告示された。安倍政権がバックにつく現職、佐喜真淳(51)と、翁長知事ら「オール沖縄」が全面支援する新人の志村恵一郎(63)の一騎打ちだ。

 争点は決まっている。米軍・普天間基地を辺野古に移設するかどうかだ。

 ところが、自公推薦の佐喜真氏は移設の是非には触れず、ひたすら政府・与党との連携をPR。これに対し、志村氏は第一声で「移設反対」と明確に主張した。

 選挙情勢は全くの互角、横一線だ。

「4年前の前回も、わずか900票差でした。あの時と有権者も、戦いの構図も、ほとんど変わらないため、今回も激戦は間違いないでしょう」(沖縄地元紙記者)

 本来、首長選は2期目が最も強いといわれる。なのに知名度ゼロの新人と「拮抗」しているのは、安倍官邸のヤリ方が裏目に出ているからだという。

「現職が苦戦している理由は2つあります。
ひとつは唐突に出てきたディズニー誘致構想です。安倍官邸は、現職を支援するために、宜野湾市へのディズニー誘致構想をブチ上げた。しかし、この誘致構想は市民はもちろん、議会も寝耳に水のものでした。これが、有権者の間で『札束じゃロコツ過ぎるから遊園地か』と嫌悪されたのです。
2つ目は、安倍政権が市長選の結果について『辺野古移設と関係ない』と言いだしたことです。勝てる自信があるなら堂々と移設を公約に掲げればいい。それをしないのは『敗色濃厚』と分析しているからだ、と新人を勢いづかせたのです」(前出の地元紙記者)

 沖縄国際大教授の前泊博盛氏はこう言う。

「背水の陣で臨んでいる新人が猛烈に追い上げているのは間違いない。現職側は相当、焦っているようです」

 新人が勝てば安倍政権に与えるインパクトは計り知れない。当然、辺野古移設の強行もできなくなる。

 

 

 


【動画】不祥事続きのNHKの根底に横たわる日本の病理 (上村達男氏・元NHK経営委員)

2016-01-18 13:28:56 | 報道

http://www.videonews.com/marugeki-talk/771/ より転載


2016年1月16日

不祥事続きのNHKの根底に横たわる日本の病理

上村達男氏(早稲田大学法学部教授・元NHK経営委員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第771回(2016年1月16日)

 NHKがおかしい。

 1月10日には現役のアナウンサーが、危険ドラッグ所持で逮捕され、新年早々、籾井勝人会長が衆院予算委員会で陳謝する事態となった。既に今年に入ってから子会社「NHKアイテック」で架空発注による500万円の着服が明らかになっているが、昨年同社ではカラ出張や架空発注などで2億円を超える着服が発覚したばかりだった。そう書いている最中にも、今度はNHKさいたま放送局の記者による100万円を超えるタクシーチケットの私的流用が報道されている。昨年、クローズアップ現代のヤラセ問題で報道機関としても大きく信用を傷つけた矢先のことだった。

 インターネットの登場で既存のメディアが軒並み苦戦を強いられる中、潤沢な受信料収入で独り勝ち状態にあるわれわれの公共放送局に、今、一体何が起きているのか。

 コーポレートガバナンスの専門家で、昨年2月までNHK経営委員会の委員長代行としてNHKの経営に関わってきた早稲田大学法学部教授の上村達男氏は、NHKはトップにある会長が問題発言や不祥事を起こしても責任を取らないために、組織としてガバナンスの危機に陥っていると指摘する。そうした中で社員の綱紀粛正が緩むのは、避けられない状態だ。

 籾井会長については2014年1月の就任会見の場で、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」「(従軍慰安婦は)どこの国にもあった」などと公言して大きな政治問題となったが、その発言は今でも撤回されていない。さらに会長就任初日に理事全員に辞表を提出させることで自身への絶対的な忠誠を誓わせたり、私用のゴルフに社用のハイヤーを使ったことが国会でやり玉に挙げられるなど、日本を代表する公共放送局のトップとしては目を覆いたくなるような発言や行動が繰り返し指摘されてきた。しかし、現在のNHKの人事のシステムの下では、会長が会長の座に居座ることが可能になっているのだという。そのような組織でガバナンスが崩壊するのは当然のことだった。

 「ガバナンス」という言葉は、社内における不正行為の防止や収益力の強化など、企業経営のあり方の一環として理解されることが多い。社員の危険ドラッグ逮捕を受けて国会に呼ばれた籾井会長も「ガバナンスの強化」の必要性を訴えていた。

 しかし、上村氏によると、そもそもガバナンスとは組織の正当性を意味する言葉で、突き詰めていけば社内に向けてトップが権力を行使する際の正統性の有無を意味している。要するに「トップをどう統治するか」が本旨であり、「組織をどう統治するか」ではないのだ。明らかにそれをはき違えている人物が、NHKのトップの座に居座っていることが、不祥事が起きやすい体質を生んでいると上村氏は指摘する。

 しかし、なぜこのような事態に至ったのかを検証していくと、現在NHKが置かれた立場の問題点や矛盾点が見えてくる。やや皮肉な言い方になるが、籾井会長の存在が現在のNHKが置かれたシステムの欠陥を露にしてくれたということもできそうだ。

 そもそも籾井会長は政治主導で会長に就いたといっても過言ではない。政治と一定の距離を置き、不偏不党を貫くことに腐心した松本正之前会長(元JR東海社長)の任期の末期に、政府は経営委員会の委員に政権に近い人物を4人送り込んできた。経営委員は政府が任命し国会の同意を必要とする、いわゆる「同意人事」の一つだった。「同意人事」の意味は、政治的中立性が求められるポストなので党派性を排除し、国会の全会一致の同意を必要とするというのが長年の不文律だった。

 ところが安倍政権が送り込んできた経営委員は、政権に近い人物であると同時に、「同意人事」でありながら、野党が反対する中で、与党主導の国会の過半数の賛成で送り込まれてきていた。当然、政権与党の意向を反映することになる。

 そうした状況の中で、前会長が続投を辞退し、そして推薦されてきたのが籾井会長だった。しかも、NHK会長の選任手続きは、それなりに社会で名声を得た著名な人物を選ぶことになるという理由から、複数の候補者を面接してその中から一人を選ぶという方法は採られていない。社会的な地位や名声のある人物を落選扱いするのが、失礼にあたるという判断のようだ。そのためNHKの会長はまず書類ベースで一人に絞った上で、一度だけ面接をして決める仕組みになっているとのだと、上村氏は言う。

 経営委員たちの目には、三井物産の副会長や外資系IT企業の社長を歴任してきた籾井氏は、ペーパー上の履歴を見る限り、申し分のない候補に見えたのだという。そして、いざ面接をする段階で、当日の朝に読売新聞が一面トップで籾井氏がNHKの新会長に決まったことを報じるなど、すでに籾井会長は既定路線になっていた。面接後の、経営委員の中には籾井氏の会長としての適性に疑問を持つ人はいたそうだが、他に候補もいない中、もはやその流れに抗うことができる状況ではなかったという。

 特殊法人であるNHKは、予算と人事が国会の承認案件であることから、政治家にはめっぽう弱いとされるが、その一方で、株式会社のような監査権や株主代表訴訟など組織を監視するような機能が備わっていないため、企業としては会長が絶対的な権力を持つという歪な特徴を持つ。つまり、政権与党の意を受けて送り込まれ、政治を恐れる必要がなくなった会長は、もはや専制君主のような絶対的な存在になってしまうということだ。

 また、会長に権力が集中する一方で、内部統制は甘い制度になっている。また、これだけ影響力のある企業には、通常、監督官庁にも一定の監督権限が与えられているが、NHKは言論機関であるという理由から他の産業のような官庁と比べてその権限は限定的だ。そのためいざトップが暴走を始めたり内部統制が崩れると、それを修正する機能が働きにくいという構造上の欠陥がある。

 そのような欠陥を内包しながらも、これまでは国会が全会一致の原則を守り、社員一人ひとりの自律的な公共意識もある程度機能していたため、NHKは何とか公共放送としての一定の信頼と評価を得ることができていた。しかし、安倍政権の下で、数々の不文律が破られた上、その結果として深刻な資質上の問題を抱える会長が相次ぐ不祥事にもかかわらず会長の座に居座り、権勢を振るい続けるという異常事態となり、ついに内部統制が崩壊する事態に至ってしまった。

 この問題を解決するのは容易ではない。これはNHK問題に限ったことではないが、日本の現在の政治や社会のシステムの多くが、個々人の公共意識によって支えられてきた不文律が破られないことを前提にして成り立っている。しかし、今、日本では様々理由から、その不文律が次々と突破されている。直近の例では、内閣法制局が中立的な立場から憲法や過去の法律との整合性を厳しくチェックしているから、明らかに前例と矛盾するような法案は出てこないという不文律も、内閣法制局長官に政権の意思に沿った憲法解釈をする人物を就けるという禁じ手によって、突破されてしまった。かつて「それをやったらお仕舞よ」と考えられてきた不文律破りが、日常茶飯事となっているのだ。

 個々の公共意識や倫理意識を取り戻すための不断の努力は必要だ。しかし、それが短期的な処方箋にはなり得ない以上、社会がこのまま壊れていくのを指をくわえて静観しているわけにもいかない。NHKについても、悪意をもって運用をされても公共放送の価値が大きく棄損されないような厳格な制度を確立するしかない。

 NHK問題を通じて見えてくる公共放送のあり方や、そこから見えてくる日本の現状について、ゲストの上村達男氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
上村達男うえむら・たつお
早稲田大学法学部教授
1948年東京都生まれ。71年早稲田大学法学部卒。77年、同博士課程満期退学。専修大学法学部助教授、立教大学法学部教授などを経て97年より現職。法学博士。著書に『会社法改革――公開株式会社法の構想』、『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』など。 771_uemura

 

 


上場目指す“寝たきり社長”24歳、「体が動かなければ、頭を働かす」 (THE PAGE)

2016-01-18 09:27:14 | 福祉 高齢 障がい
  • THE PAGE  http://thepage.jp/detail/20151107-00000003-wordleafv?page=1 より引用、転載

上場目指す“寝たきり社長”24歳、「体が動かなければ、頭を働かす」

2015.11.08 10:06

 今年5月のある晩、東京の自宅でパソコンをいじっていたら、見知らぬ青年から突然、こんなフェイスブックのメッセンジャーが届いた。「こういう本を出しています! 安倍総理にもご一読いただきました」と勢いがいい。『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)というタイトルで、要は自著を読んで欲しいという“セールス”。メッセージの主は愛知県東海市で名刺とウェブサイト制作をしている会社「仙拓」の社長、佐藤仙務(ひさむ)さん(24)だった。

10万人に1人の難病「SMA」

自著『寝たきりだけど社長やってます』と佐藤さん

 「寝たきり社長」とはどういうことかと、その場で佐藤さんのことをネットで調べてみると、生後間もなくSMAと診断され、ずっと寝たきりの生活をしているらしいことが分かった。SMAというのは、脊髄性筋萎縮症のことで、筋肉を動かす神経に問題があり、体を動かせず、筋肉が萎縮してしまう病気だ。似たような病気にALS(筋萎縮性側索硬化症)がある。「乳児期から小児期に発症するSMAの罹患率は10万人あたり1から2人」(難病情報センター)だといい、佐藤さんはこの一人だったというわけだ。
 
 佐藤さんの本は、いわゆる“闘病記”ではなかった。障がいを乗り越えて、会社を設立していく1人の青年の成長譚(たん)でもあり、会社を経営していくなかで働くことの意味や障がい者と世の中との関わりを問う内容でもあった。体も頭も動くのに、自分自身に負けてしまうことがどれだけ多いことか。この本には、随分、励まされた。

寝たきりの社長をITが支える

見上げた先にはパソコンのディスプレイがある。ここが社長席。

 佐藤さんとのインタビューが実現したのは、半年後の11月。アパートを間借りした「仙拓」のオフィスを尋ねた。佐藤さんは、部屋に置かれた特製のベッドに“着席”している。体は仰向けで、見上げた先にはパソコンのディスプレイがある。ウェブカメラもついていて、こちらはスカイプ(ネットの通話ソフト)などで使う。エアコンやDVD、部屋の照明もここから操作できるらしい。

 佐藤さんは体の自由がほとんど利かない。話すことはできるが、わずかに動くのは右手と左手の親指だけ。佐藤さんの体に合わせて、父親が入力デバイスを作ってくれた。右の親指でトラックボールを操作し、左の親指で左クリックを押している。文字の入力は、ディスプレイ上のスクリーンキーボードを使い、パソコンを操作する。『寝たきりだけど社長やってます』はこうやって書かれた。

 「この状態で文章を書くのはさぞ大変だったでしょう?」と聞くと、「そうでもないですよ」と言って、テキストエディタを立ち上げ、ソフトウエアキーボードで文字を打っていく。予測変換機能や学習機能は大したもので、「お」と入れれば「お世話になります」が候補にあがってくるなど、自分がよく使う単語はもちろん、辞書登録していない言葉まで候補に出てくる。「Google日本語入力を使っています。これを使うと、ほかの入力ソフトは使えないですね」と、どんどん文字を入力していく。ブラインドタッチのように速いわけではないが、慣れない高齢者がキーボードを打つスピードより速い。

 佐藤さんの仕事を支えているのは、このパソコンだ。業務用のメールを打つのをはじめ、領収書や請求書の処理までここでやってしまうし、ネット経由の“飛び込み営業”までこなしてしまう。こうしたITが、重度障がい者の社会進出を支えていることを目の当たりにすると、本当に良い時代になったなと心から感じる。佐藤さんも「パソコンの向こう側にいる人たちには、僕が障がい者だとは分かりませんよ」と笑う。

健常者に近づかないといけないのか?

左の親指で左クリックを操る

 道具は進化しても、社会の仕組みや人々の意識はまだ進化していないのかもしれない。佐藤さんが自分で会社を作ったのは、単純に「重度障がい者の働く場所がなかった」からだ。

 佐藤さんが、養護学校の卒業を間近にひかえた2009年夏、就職先にと考えていた授産施設の実習にでかけた。作業の終わり際に60歳代の車いすに乗った男性に出会う。

 男性はこう言った。「ここから1人で帰るんだろうな」。全身が動かないのに一人で帰れるはずがなく、送り迎えは母親がしてくれる。なぜ1人で通えないかを説明するが、男性がたたみかけてきた。「親が甘やかしやがって……。1人で通わせろよ」「お前みたいな軟弱障がい者、ろくな人生送れない」。

 親をバカにされたようで、怒りが収まらない。親に迷惑をかけている自分にも腹が立ってきた。佐藤さんが、ここで直面したのは「障がい者が健常者に近づこうとする現実」だった。「健常者に近づこうと自分を追い込まなくてもいいじゃないか」と感じた。

体が動かなくても関係がない。「仙拓流」の営業とは

 結果、この施設に就職することはやめ、障がい者支援施設に通うかたわら、日本福祉大学(愛知県美浜町)にも通う。働くことを諦めきれない佐藤さんは、2011年5月、その施設で同じ障害を持つ松元拓也さん(26)を誘って共同で「仙拓」を設立することになる。「普通の会社で働こうとしたら、会社は介助者を雇わなければなりません。そうすると気持ち、人の二倍の仕事をしなければなりません。それは重いでしょう?」。

 松元さんは「仙拓」の副社長で、ウェブや名刺のデザイン担当。佐藤さんは営業部長のような存在だ。はじめのうちは、身内を頼って名刺を発注してもらう程度だったが、今は違う。ネットを見て、つながりたいなと思った人にはネット経由でコンタクトをとる。体が動かないからその後の商談ができないということはない。来てもらえばいいし、そこまでやらなくてもスカイプでやりとりすればいい。これが「仙拓流」の営業。

 体が動くとか、動かないとか関係がない。まぁ、とにかく、熱心にいろんな人とコンタクトをとる。安倍晋三首相や昭恵夫人をはじめ、イタリア料理店「LA BETTOLA (ラ・ベットラ)」 の落合務シェフ、そしてテレビや雑誌、ウェブメディアに声を掛けるPR活動も怠らない。いまはTBSのドキュメンタリー番組の密着取材も受けている。

 「障がい者が社長を務めている会社はほかにもありますが、実際は健常者が経営をしていることがあります。『仙拓』は違います。ただ、障がい者が会社をやっているということで有名になって、それだけで仕事が回るほど世の中は甘くはありません」と佐藤さん。

アプリの開発にもチャレンジしてみた

松元さんがプロデュースした「歯みがき日和」

 佐藤さんと話をしていると、難病の患者であることをまったく感じさせない。ポジティブでアグレッシブにビジネスに取り組む青年実業家のイメージしかない。彼の悩みは体が自由に動かないことではなく、会社をどう大きくしていくかということにある。収益の多様化は検討事項の一つで、昨年はスマートフォンのアプリ制作にも取り組んだ。

 「普通なら、障がいを持った人でも操作しやすいアプリとか出すと思うでしょう? それも考えたんですが、僕らは体が不自由だから、人の歯を磨くことができないなと思って作ったのがこれです」と紹介してくれたのが、iPhone用のゲーム「おおきく口をあけて!歯みがき日和」だ。

 「帰りの新幹線で遊んでみるよ」と伝えたら、「止めたほうがいいです。絵と音が恥ずかしいですから」と笑われた。東京に戻ってきて、アプリをインストールして遊んでみたけれど、そのアドバイスに感謝した。歯を磨いてあげると、いわゆる「萌え系美少女キャラ」が「センパイ!」「ええっ!?あっ、いや!そこまではちょっと」などとアニメ声で反応する……。

 ゲームのプロデューサーを務めたのが松元さん。松元さんが構成や進行を考え、名古屋市の IT特化型障害者就労移行支援事業所「テリオス」にプログラミングを依頼、声優さんを雇って音声を録音してもらった。アプリは1万ダウンロードを超えたものの、掲載される広告で収益を上げるには厳しかった。「黒字にならなくても、開発費用くらいはペイできればと思っていましたが、それも遠いです」と残念がる。

 「松元がエンターテインメント要素の強いのをやりたいって言うのですが、『仙拓』と目指す方向性違うから……」と2014年12月、松元さんが代表を務めるアプリ制作子会社「ムーンパレット」を設立した。現在もゲームアプリを制作中で、近くリリースする予定だという。

障がいを持った社員が活躍できる場を作りたい

 会社設立初年度の売上は約76万円だったが、2014年の年商は約300万円へと成長した。「障がい者雇用を進めていきたい」と言う佐藤さんは、社員が活躍できる場の提供にも熱心に取り組む。いまでは従業員2人を雇うようになった。いずれも筋ジストロフィー症の重度障がい者だが、ITを駆使しながら在宅で勤務する。

 1人は、大阪に住む大学院卒の37歳の社員。最初、「働かないか?」と声をかけたら、彼に怪しまれたのだという。そもそも難病を抱えていると、働くという選択肢は生活のなかにない。通院以外に外出しないのが日常なので、就職という「うまい話」が飛び込んでくると「騙されているのではないか?」と感じてしまったのだという。しかも「寝たきりで働けます」と言われたらなおさらだろう。

 「彼はサイトのアクセス解析をしてくれているのですが、本当に給料がもらえるとは思っていなかったようです。でも、口座を見たら実際にお金が入っていた。そのお金で、家族にお寿司の出前をとってあげたらしいですよ。今では『働けるとは思ってなかった、死ぬまで働きたい』と言ってくれて、僕も嬉しくなってしまいました」。

 もう一人の埼玉に住む23歳の社員については、こう話す。「有名大の法学部を首席で卒業したんです。でも、就職活動では『筋ジス』だということだけで『無理』と言われてしまいます。でも、頭がよくて、成長がすごいんです。ウェブ制作技術のすべてを吸収していく。上司である副社長の松元も『やべぇ』と言って警戒するくらい。こんなに嬉しいことはないですよ」。

 世の中には、部下の成長を嫉妬したり、自分より能力の劣る部下に優越感を感じたりするリーダーや課長がごろごろいる。そういう心理がビジネス実務書のテーマになることだってあるのに、寝たきりのハンデを抱えながら、わずか24歳でその境地に達するものなのか?

「社員全員が障がい者の会社」を上場させる

佐藤さんが社長を務める株式会社 仙拓のホームページ

 「諦めずに最後までやるタイプ」と自身を評価する。佐藤さんは「体は動かないけれど、頭は人と同じように働く」と言ってはばからない。「会社を作ったときも、1〜2年で潰れると言われたけど、4年続いている。いまでは上場したいんですよ」と言い始めた。それも社員全員が障がい者の会社。

 「本当に?」と驚いた。「そうやって笑われるけど、何でも言ったことを実現したときの達成感が気持ちいいんです。高校のときは有名人になりたいと先生に宣言しました。今では、こうやってメディアにも取材されるし、有名が実現してきているでしょう?」と言う。「なると言ったことは、なるんですよ」と話すそのときの表情は、真剣そのものだった。

 インタビューが終わって帰り際、佐藤さんは「僕には運があるんです」と言った。私は「運は努力の結果、勝ち取るものと言いますよね?」と返したが、佐藤さんは「そうではない運もあるとは思いませんか?」と悟ったように言う。
 
 自分が不自由な体に生まれてきたことをまったく恨んでいなかった。上を向いて、楽観的に構えていると降ってくる運もきっとあるのだろう。佐藤さんは、そんな運のつかみかたを知っているに違いない。

 「下を向いちゃうとチャンスが向こうに行っちゃうから。寝たきりだと下を向けないから。後ろも振り向けないから」。そう笑いながら私を見送ってくれたのだった。