鈴木博喜
約400人の地方議員が参加する「原発事故子ども・被災者支援法」推進自治体議員連盟が25日、衆議院会館で政府交渉に臨み、2017年3月末での自主避難者向け住宅無償提供打ち切りの見直しなどを求めた。
福島県からの避難者も出席して「私たちは福島に帰らないワガママな奴ですか?」と怒りの声をぶつけたが、復興庁をはじめ、ずらりと並んだ役人たちは、改めて支援打ち切りの見直しを否定。最後まで血の通った前向きな発言は無しく、しどろもどろの回答に終始した。郡山市議は呆れ顔で言った。「あなた達は福島の寒さよりも冷たい」
【「新たな支援」対象は半数だけ】
絵に描いたような「官僚答弁」に、当事者たちは我慢ならぬと声をあげた。
「住宅は生活の根幹。なぜ他の項目より優先順位が下がるのか理解に苦しむ。そもそも、福島県が発表した支援策は、こちらが求めてきた内容ではない。転居費用にしても、福島に帰らないと支給されない。今の家に住み続けさせて欲しいんですよ。住宅へのニーズはあるんです」
鴨下祐也さん(いわき市→東京都)は、避難者団体「ひなん生活をまもる会」の代表として、これまで何度も国や福島県と交渉してきた。署名も添え、一貫して住宅の無償提供継続を訴えてきたが、そのたびに、県は「国に伝える」、国は「県に伝える」とはぐらかされ、もどかしいやり取りを繰り返した。挙げ句、福島県は昨年6月、政府の避難指示に拠らない、いわゆる自主避難者への住宅無償提供(みなし仮設住宅)を2017年3月末で打ち切ることを決定。12月には、世帯収入に応じた家賃補助を2年間に限って行うことなどを柱とした新たな支援策を発表した。
同議員連盟事務局長の中山均新潟市議によると、福島県の担当者は問い合わせに対し「家賃補助が受けられる避難者は、だいたい半数だ」と答えたという。つまり、少なく見積もっても、避難者の半数は「自立」の名の下に確実に切り捨てられることになる。
共同代表の佐藤和良前いわき市議は「全ての人を助けるのが『救済』。半数も切り捨てられるのは救済とは言わない。棄民だ」と声を荒げた。復興庁の男性参事官補佐は「切り捨てる方向で考えているわけではない」、「出来る限りの支援をしていく」と再三、強調したが、一方で「国と福島県で協議して決めたこと。現時点で打ち切りの方針が変わることは難しいだろう」と、住宅の無償提供継続を事実上、否定した。帰還政策に基づいた住宅支援打ち切りは決定事項。困っているなら少しだけ助けてやろう─。それが国の意思なのだ。
(左)富岡町から会津若松市に避難中の古川好子さんは「避難者の事を、帰らないワガママな奴と考えている
んですか?」と迫った
(右)要請書を提出した佐藤和良氏。国側は最後まで、住宅支援打ち切り撤回へ前向きな姿勢は見せなかった
【「全避難者が住宅に困ってはいない」】
この日の交渉で、同議員連盟が要請したのは次の4点。
①住宅支援について、避難当事者の意見を十分に聴取する場を設け、反映させること。
②2017年4月以降の住宅支援施策について「支援法」に基づく抜本的・継続的な住宅支援が可能となるよう、福島県の支援施策も含めて県と協議のうえ見直すこと。
③各自治体の空き家活用施策や居住支援協議会での住宅確保要配慮者として避難者支援策を位置づけること。
④原発事故汚染に対処するため「支援法」に基づく新たな法制度を確立すること。
しかし、事前に要請内容を知らせていたにもかかわらず、国側は新年度予算要求に向け昨年10月に作られた資料を配布するだけで具体的な回答はなし。「今後も説明会や交流会の場でご意見を伺っていく」、「福島県による家賃補助が終わる2年後以降、どうなるかまだ見えていない。改めて県と協議することになるだろう」などと答えるにとどまった。
議員らは、東京都豊島区の実例を挙げながら、各自治体に設置された「居住支援協議会」の「住宅確保要配慮者」に原発事故避難者も加えるよう国の指導を求めたが、国交省住宅局安心居住推進課の企画専門官は「国が一律にお願いするものではない。避難者であるか否かにかかわらず、住まいに困っているのであれば現行制度で十分、住宅情報提供の対象となっている」として拒否した。
同省のホームページによると、「住宅確保要配慮者」は「低額所得者」、「被災者」、「高齢者」、「障害者」、「子どもを育成する家庭」、「その他住宅の確保に特に配慮を要する者」と定義されている。議員らは「原発事故避難者、と一言入れるだけでだいぶ違う。検討して欲しい」と食い下がったが、同専門官は重ねて拒否。交渉終了後の本紙の取材に対しては「避難者全員が住宅に困っているわけではない。困っている避難者は、現行制度で十分に対象となり得る。盛り込んでしまうと困っていない避難者まで対象になってしまう。立場ではなく、現実に困窮しているかどうかが問題だ」と理由にならない理由を述べた。
内閣府、復興庁、国交省の役人がずらりと並んだが、血の通った言葉は一つも出なかった=衆議院会館
【埋まらぬ役人と避難者の温度差】
「お気持ちは分かります」、「ご意見を多数いただいている」、「出来る限りのことをしたい」…。原発事故以来、放射線を避けるため〝自主的に〟避難している人々は、これらの言葉を何度、聞かされてきたことか。古川好子さん(富岡町→会津若松市)が業を煮やしてマイクを握る。
「避難者を、福島に帰らないワガママな奴だと考えているんですか?はっきり言ってください」。この5年間、ずっと「先の見えない」日々を過ごしてきた。住宅の無償提供が延長されるか否か、毎年心を痛めながら見守ってきた。「来年3月には住む所が無くなるかも知れないというドキドキ感は、あなた方には分からないでしょう」。特別扱いなど要らない。放射線から逃れる権利、せめて住まいだけでも心配なく避難できる権利を国の責任で認めて欲しい。ただそれだけなのだ。
そして、こうも言った。「明日から野宿してください。その代わり、立派なスポーツジムを無料で使って良いですよと言われたら、あなたたちは困りませんか?あなたたちの感覚は、私たちの生活レベルと全然違うんですよ」。これには、復興庁の参事官補佐も「ハードの整備を必要としている人はいる。それと住宅支援を比べるものではない」と答えにならない言葉を吐くしかなかった。顔は紅潮していた。
中通りから母子避難している女性は泣いていた。「放射線被曝の実害が出ているんです。私たちは正当に避難している。ワガママではありません」。子どもはまだ4歳。被曝の危険性を考えると到底、福島には戻れない。「住宅支援打ち切りは子どもの貧困につながります。避難・移住の権利を認めてください。国は私たちの家賃を東京電力に支払わせてください」と訴えた。しかし、もはやどれだけ涙を流しても役人の心には響かない。「打ち切り方針が変わることは難しいだろう」と繰り返したうえで、こう言った。
「それはそれとして、できる限りの支援をしていきます」
平行線のまま、2時間が過ぎた。蛇石郁子郡山市議が「国の考えが冷たい。福島の寒さよりも冷たい」と怒りを込めて話した。「なんでこんなに馬鹿にされなければいけないのか。ハード面には大規模な予算がつくのに、生存権にかかわる部分は細切れ。そんなに戻れと言うなら、20mSvを超える場所に国の役人が来て、範を示して欲しい」
「切り捨てない」と言いながら、一方で「避難の必要はなくなった」と帰還を促す国。背後には、4年後の東京五輪が透けて見える。棄民へのカウントダウンは着実に刻まれている。
(了)