正月の鎌倉は参拝客で埋め尽くされ何処に出るにも普段の倍の時間がかかるので、大抵の地元民は外に出ず家に籠ってゆっくりしている。
まあ私は通年家に籠りきりだが。
昨年も話したが、隠者は陰暦を墨守して生活している。
四季の美を楽しむにも、作品に季語を活かすにも陰暦の方が都合が良いのだ。
したがって我が家の正月は立春の時になる。
そうは言いつつ一応今も賀客のために最低限の正月飾りはしているので、立春時の旧正月と合わせて正月休みが2度あると思えば楽しい。
世間の慶事に水を差すつもりは無いが、隠者は偏屈なのでこの寒中に迎春と言われても何が目出度いのか実感出来ない。
自然の季節感に従った旧暦の正月なら梅も咲き出し鶯の初音が聞こえて、冬を生き延び春を迎えた喜びを素直に感じられる。
そもそも将軍家直参旗本の鎌倉鬼門守護職である私の立場から見ると、薩長明治政府の太陽暦導入は政経面では仕方ないとしても、季節の行事まで自然を無視して切り替えたのは愚策と言いたい。
真冬に賀春、梅雨の最中に七夕では、句も歌も季感がずれて気持が込め難いのだ。
(庭の侘助)
私が思う日本人の暮らしの理想形は、明治頃の各地方の郷士豪農のライフスタイルだ。
自然の中で季節季節に応じた暮らしは、例えば古き良き18世紀アメリカのアッパーミドルの生活様式にも近い。
そこから悪しき因習を取り払って、現代文明の便利さと調和出来れば言う事無しだった。
穏当な自然神信仰も取り戻して各家で節々の行事を行えば、現代生活に失われた厳粛さも返って来るだろう。
西洋の太陽暦の元はアポロン信仰だ。
捻くれ者の隠者は参拝までに1〜2時間並ぶ八幡宮へは行かず、我が家のアポロンを拝んで済ます。
(アポロのイコノグラム ローマ時代 著者蔵)
*更新遅延陳謝*
©️甲士三郎