(火災で焦げた信楽壺)
月に一度でも良いから自室に花を飾ってみると、暮しが明るく潤うのに異論はないだろう。
第二次大戦後のGHQの将校が、焼跡のバラック暮しでも空缶に野の花を飾る日本人の心に感銘し日記に書き残している。
隠者もそんな気持ちで稚拙な花を活けている。
上の写真は戦禍の焦土に咲く強靭な美と生命力を想って、幕末頃に作られた後に大火をくぐって来た種壺に待春の玉椿を活けてみた。
元々花器でない物でも少しの水さえ入れば、古び汚れ壊れたような物と花の取り合わせは実に効果的なのだ。
他にも古い真鍮や木製の器物など家にあれば試してみると良い。
花を飾るのは特に一人暮らしの男性にお勧めだが、活花の作法を知らないからと敬遠する人が多い。
投入れ花においては流派花の作法は寧ろ邪魔で、先述の空缶の花のように心の赴くままにやるのが正道だ。
野の花の一輪挿しに最も適しているのは実は花瓶より徳利で、先ずはその辺から始めるのも良い。
(小徳利に虫喰い玉椿)
楽しさがわかって来たら、そろそろ魂を込められるような花入が欲しい。
和花を活けるには花の色と喧嘩するような絢爛豪華な色絵磁器は禁物で、特に年配の男性なら無骨な陶器にこそ荒ぶる天地の色を観ずるべきだろう
理想は伊賀、信楽、備前あたりの古陶器で、歪んで自然釉の吹き荒ぶような物が欲しいが、その選定は初心者には難易度が高い。
現代作家の物もネット上の価格はかなりこなれているので、贋作の多い著名作家さえ避ければ中堅新人の作は安心して買える。
低予算で最も面白さが味わえるのは、江戸後期〜明治期の無銘の作品だ。
19世紀の伊賀信楽備前に美濃の土物は結構数も出回っていて、ネットや骨董店でもよく見る。
最後に付け加えると、投入れの花は洋花より和花に限る。
隠者にとって、洋花はどうしても季感や詩情に乏しい。
最近の花屋は洋風の暮らしに合わせてカタカナ名の洋花ばかりなので、気を付けたい。
©︎甲士三郎