鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

154 晩夏の光陰

2020-08-13 13:41:00 | 日記

ーーー陽の褪せて刻の留まる夏の果 昔の我が通る裏路地ーーー

晩夏の光は幾分か過去の色味を帯びて気怠い。

鎌倉の百年前のままの路地は人影も無く時が止まっている。

だいたい隠者は過去に生きる者なので、こんな路地によく出没する。


ここはいつも通る道のひとつ脇の、白旗神社に抜ける路地だ。

この谷戸は車が入れないような、大正昭和の頃の狭い路地が沢山残っている。

古式写真機が上手く昔の光を捕えてくれた。


古いレンズはコーティングが無いので、光源の角度によっては内面反射によるフレアーやゴーストが出やすい。

それを逆に活かせば、現代レンズでは出来ない一つの表現手段となり得る。


晩夏の逆光では人物を暗くシルエットにしたり、物の周囲をフレアーで幻想化する手法が効く。

路地の鉢植えの花もフレアーとコントラストの低下で、記憶の中に咲く永遠に散らぬ花に近付けた気がする。


猛暑の中でも緑陰で45分なら、詩句を案ずる余裕はある。

ーーー弱法師(よろぼし)の背負ふ晩夏の光かなーーー


まあこの写真の光彩は我ながら上手くいった方だが、我が人生には作品の出来よりもその元となる感動体験の方が常に重要だ。

この時は己が身ごと晩夏の光陰に溶け込んで、詩的荘厳を得られた満足感がある。

一応言っておくとPCでの編集加工は一切していない、オールドレンズの純粋なフレアーだ。


今回使用した古式写真機。

幻視を具現化できる魔導具だ。


ベス単レンズ改(1919年アメリカ製)

アサヒペンタックスSP(1964年日本製)


©️甲士三郎