画家が静物画のモチーフを美的に構築する事は、世界の秩序と混沌を司る創造神となる事に等しい。
床の間の飾りも他の造形美術諸々も、神々の御業と同じ天地創造の全能感に浸れる。
さっそく近所で買って来た鎌倉産の冬野菜で、床飾りを設えてみよう。
冬瓜と黄蕪にビーツをいくつか朴落葉の上に並べ、卓上の小宇宙を創って楽しむのだ。
室町水墨の蘆雁図を背景にすれば、中世の荒ぶる天地の趣きを室内に再現出来る。
設えた飾りの前に座して茶を点て、浄土楽土を観想するのが隠者流だ。
後で野菜をどんな料理にするか考えるのも楽しい。
ビーツは赤くて見た目でも温まるボルシチ一択だろう。
冬瓜はしばらく飾ってから中華スープにしよう。
次は冬ざれの我が楽園から枯葉や赤い実を拾って来て、鎌倉宮の骨董市で見つけた朽ち加減の良い枡を中心に配置してみよう。
古木の朽色をベースに赤と緑、光と闇、秩序と混沌の構成を考えていると、いつしか時を忘れて没頭してしまう。
仕上に荒庭に咲き残っていた冬菊を添えて完成だ。
写真撮影は現代的な明るさより中世的な暗さを優先する方が、冬の隠者らしくて良いかと思う。
さて今晩は冬至の祭宴だ(12月21日)。
冬至は易経に言う一陽来復の日で、この日から万物の気が陽に転じる。
西洋では太陽神の復活の日だ。
中央奥が太陽神ソル(昨年の冬至はアポロを祀った)とヴィクトリーのイコノグラム。
古代ローマではクリスマスより冬至祭の方が重要だったが、中世キリスト教の支配下で太陽神信仰は異端とされ廃れていった。
供物に庭で採れた柚子や蜜柑などを転がして、神々や精霊達との賑やかな祝宴だ。
我家は多神教の上に和洋折衷様式なので、ローマ神に日本の風習で冬至柚子を飾っても許される。
柚子は後で風呂に浮かべて、ゆっくり句でも詠もう。
こんな感じで隠者は疫病禍で引籠る中でも、四季の暮しを楽しんでいる。
読者諸賢もぜひ美しき春秋を送って欲しい。
©️甲士三郎