今年も昨年に続き疫病禍で、花火も祭も盆踊りも無く夏が終わった。
例年なら9月10月は取材旅行の時期なのだが近年は老母の介護もあり、長らくスケッチにさえ行けなくなっている。
そこで家に居ながらにして深山幽谷へ移転する仕掛けが役に立つ。

(山水図色紙 大鳳併題 明治頃)
色紙はそのままでも額でも色紙掛けでも気軽に鑑賞出来る上に、安く買えて収納も楽なのでお薦めだ。
居間でお茶を飲みながらちょっと取り出して、俗世を離れた深山幽谷に移転できる。
江戸後期から明治大正頃までの文人達には、市塵にまみれながらも清浄な気分になれるこのような山中幽居の絵が大変好まれた。
現代人でもこんな山水画を部屋に掛ければ、俗事を忘れて高雅なひと時を過ごせる。

(深山訪友図 月僊 江戸時代)
「朋あり遠方より来たる、また楽しからずや」のような、文人画に多くある友人の山中幽居に遊びに行く絵だ。
詩書画などで高い精神性を語り合える友はいつの時代にも得難い。
疫病禍で旅にも出られない昨今こそ、このような絵が閉塞感を和らげてくれる。
詩の軸は低照明の廊下や洋間でも合う。

(秋景七絶 田能村竹田 江戸時代)
秋山に棲む良さを詠んだ詩で、竹田の端正な書体に清澄さがある。
修行すればドラえもんのどこでもドアのように、ここから清浄界へと移転できるようになる。
先に言った時よりは良作は減ったが漢詩の軸はまだまだ安く、四季それぞれに揃えても大した費用ではない。
今年は取材旅行の予算をこのような古書画に注ぎ込んで、家に籠りながらも秋の山野を巡ろうと思う。
©️甲士三郎