ーーー巫女舞や初空の青深きより 光集めて白妙の袖ーーー
正月の鎌倉はどこも混むので隠者はあまり出掛けないのだが、近所の鎌倉宮の巫女舞だけは観に行く。
毎年この美しく清浄な奉納舞を見る度に、この古都にはまだ天神地祇の恩恵があると思える。
(鎌倉宮の新年の巫女舞)
私が聖性を感じるのは国家神道や一神教の絶対神とは別の、八百万の自然神の事だ。
世界のどの国でも太陽神や地母神、詩神や花の女神達が居なかったなら、人の暮らしも文化芸術も美しく豊かにはならなかったろう。
隠者にとっても春の女神の佐保姫や木花咲耶姫達と共にある暮しは、掛け替えなく麗しく楽しい物だ。
諸賢も暮しの中に神聖さを取戻すため、四季の女神くらいは祀ってみては如何だろうか。
さて我家に帰ってお馴染みの和歌の女神、衣通姫にお出まし願おう。
(衣通姫絵姿 玉津島神社 室町時代 金銅鈴 鎌倉時代)
立春(我家の正月)には木花咲耶姫が出でますので、衣通姫は新暦の正月にお祀りする事にした。
我が句歌の出来の良し悪しはこの美しき女神の御機嫌次第なのだ。
手前には退魔の色の朱盆に乗せて魔除けの古鈴を置いた。
ーーー盆の朱に秘せる力や冬籠りーーー
この時期に読みたくなる本は文字通り「佐保姫」だろう。
与謝野晶子の中期の歌集だ。
(佐保姫 初版 与謝野晶子)
この頃の与謝野晶子の短歌にはたびたび古代神が現れる。
「みだれ髪」の情熱的な歌しか知らない人は、ぜひその後の歌集も読んで欲しい。
豊饒な神話的ファンタジーの歌は、アニメ世代の若い人ほど理解し易いのではないか。
どうも八百万の神々と言うと時代がかって取られるので、隠者は花鳥風月の神々と呼ぶ事にしよう。
今年も四季の女神、花神、芸術神達と、夢幻界の楽園での暮しを大いに楽しもう。
ーーー佐保姫の春な忘れそ都人 花たてまつれ歌たてまつれーーー
と言いつつ今日は鎌倉も雪となった。
だから寒の入りの前に正月をやるのは駄目なので、季節の行事だけは旧暦に戻すべきだと思う。
ーーー荒庭の全てを許し雪積みぬーーー
©️甲士三郎