2〜3日前の花冷えと言うより冬に冴え返ったような気候の後、ようやく暖かく長閑な春らしい日となった。
近年の気候変動のせいで春が短く夏が長くなってしまい、こんな日和は年にほんの数日あるか無いかだ。
そんな貴重な麗日には良い詩集でも持って外に出て、精一杯我が楽土の春を味わいたい。
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(阿久悠自選詞集 初版 益子湯呑 昭和前期)
最近見つけた昭和歌謡の巨匠阿久悠の歌詞集。
昭和世代なら誰でも知っているような名曲のかなりの数がこの阿久悠の作詞だった。
春陽遍き野辺で我が若き日のノスタルジーに浸っていれば、折良く紋白蝶が来て茶盆の上でしばし舞って行く。
「雪が舞う、鳥が舞う、一つはぐれて夢が舞う。」
森進一の歌った阿久悠作詞の「北の蛍」は昭和演歌の最高傑作だった。(北の蛍はこの自選詞集出版の次の年)
また阿久悠が作詞家を目指したのは西條八十の詩に感動したからだと自身で語っている。
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(西條八十詩集 砂金 共に初版 古瀬戸ポット 明治時代 益子マグカップ 昭和初期)
西條八十は「唄を忘れた金糸雀(カナリア)」など一連の童謡が有名で本格詩人としては忘れられているが、私は薄田泣菫蒲原有明の次代を担った大詩人だと思っている。
処女詩集「砂金」は今も古書界では希少本扱いで美麗初版本は入手し難く、写真の物は結構痛みがあったので隠者でも買える価格だった。
そして次の写真の本こそ今も一部の文芸ファンに絶大な人気のある、その名も「少女純情詩集」だ。
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(少女純情詩集 初版 西條八十)
この詩集は当時の良家の子女達に熱狂的に支持され、後世の少女小説や日本が世界に誇るべき少女漫画文化に大きな影響を与えた。
この頃は一般家庭教育においても少年少女向けの良質な出版物が求められていた時代だった。
可憐な菫草の紫と装丁画の金色が春陽に調和して、我ながらこの春の写真の収穫の1枚となった思う。
いくらでも来ると思っていた真に春らしい麗日が、この先はもう年に2〜3日づつしか来ないと知れば惜春の情はいよよ強まる。
諸賢も俗事にかまけてこの天恵の麗日を無駄にしないように祈っている。
©️甲士三郎