鎌倉では花の乏しいこの時期でも山茶花があちこちの庭や路地に咲く。
床飾りの冬花には必須なのでちょっと古い家には大抵植えてあるのだ。
放ったらかしの我が荒庭にも咲いて小春日にはガーデンティーが楽しめる。
(長机 清朝時代 赤絵ポット 道八 幕末〜明治)
花の色に合わせて茶器も赤絵にした。
山茶花は日当たりが良く花付きの多い所より、初冬の風情としては少し寂しいくらいの花数が好ましい。
ゆっくりと薄れ行く陽を惜しみながら、冬花の精と共に静謐な茶時を過ごせる。
ーーー山茶花や朝だけは陽の当たる路地ーーー
私の山茶花のイメージは古い童謡や民話のノスタルジックな路地に咲く花だ。
(童謡の作り方 初版 西條八十 古瀬戸花器 ウエッジウッドカップ)
山茶花の唄は巽聖歌作詞の童謡「たき火」が有名だが、童謡作家で私のお薦めは西條八十だ。
彼の童謡や唱歌はセンス オブ ワンダーに満ちて、「かなりや」などは詩としても当時の一級品だと思う。
この本はその制作の秘密をかなり親切に語っている。
装丁も大正浪漫(発行は昭和2年)の雰囲気で気に入っている本だ。
写真の薄紅の山茶花は鉄釉褐色系の小花入と色調が合わせ易く、冬らしい簡素な美しさが出るので隠者好みの花だ。
先日話した水原秋桜子の短冊がやっと出てきた。
(直筆短冊 水原秋桜子 古丹波壺 江戸時代)
「冬菊のまとふはおのがひかりのみ」水原秋桜子 句集霜林
菊や草花の句は大書の軸装よりもこの短冊位の可愛い大きさが丁度良い。
水原秋桜子は書も品格があって美しい
我が俳句初学の頃に憧れた句だったので、長年探して入手出来た時にはとても嬉しかった。
古織部の湯呑と皿で茶菓を楽しみながら、若き日に芸術論を交わした旧友を思い起こそう。
庭にあった寒菊を10年ほど前に枯らしてしまったので、句のような寂滅の趣きには程遠いが花屋の普通の菊でご勘弁。
©️甲士三郎