今週の鎌倉は連休で混雑していたが、観光寺社以外の場所はそれ程でもなかった。
薫風吹き渡る我が谷戸は蛾眉鳥が鳴き栗鼠が駆け回り、正に風光明媚なる時を迎えている。
山際の小径には卯の花が群れ咲き、新緑と白の爽やかな対比を見せる。
和歌では古今新古今集時代から卯の花は初夏を代表する花だった。
大正昭和時代の俳句にも沢山詠まれているが、近年ではなかなか見られなくなった。
近所でも数年前まであった見事な卯の花垣の家が取り壊されて、平凡な洋風の家になってしまったのは残念だ。
殊に古い路地にはこの白花が似合い、夜だと幻想的に浮かんで見える。
少し山に入った辺りの沢沿いにも良く咲いている。
ーーー卯の花の囲む小淵は緩やかに 月の光を浮かべ渦まくーーー
卯の花と共に我が谷戸の5月を彩るのが黄菖蒲だ。
私は長い間これを黄あやめと言っていたが、湿地に咲くのは菖蒲か杜若と呼ぶらしい。
昔は細かな区別無くみんなあやめで済ませていたのだが………
和歌では漢語は使わないので、菖蒲では無くあやめで良い。
この場所は蛙も鳴いていて楽しい散歩道だ。
ーーー夕暮の黄あやめの咲く家岸に 帰る小径の花明りせりーーー
下の写真は連休前に撮ったまだ初々しい緑の杜だ。
若楓と﨓の明るい緑の奥で時鳥が鳴くのを聴くと、古人が好んで句歌に詠んだ気持ちが良くわかる。
鎌倉宮の奥の護良親王の土牢のある薄暗い杜は、中世の雰囲気があって隠者好みなのだがそこに入るのは有料なので滅多に行かなくなった。
時鳥は姿は地味で梢に隠れて見つけ難いが声は特徴があり聴き分け易い。
ただ我が谷戸の蛾眉鳥はこの時鳥の声も上手く真似る。
ーーー磐の根のよろづ荒ぶる暗がりに 透音を磨く時鳥かなーーー
梅雨入りまでもうしばらくの間、我が谷戸は花鳥の楽園だ。
古い和歌の詠題には現代日本の酷暑の時期に使えるような詞は無いので、伝統的な夏の季題は精々今のうちに詠み溜めておこう。
©️甲士三郎