今日の天気予報では案の定10月上旬まで真夏日が続くと言う。
せめて気分だけでも涼しくと、前回も取り上げた信州の本を読もう。
室生犀星は軽井沢に草庵を築いて長年住んだ。
親しかった友人の芥川龍之介も生前何度かそこを訪れている。
(信濃の歌 初版 室生犀星 古九谷青手急須湯呑 幕末期)
犀星は信州を舞台にした随筆を沢山書いていて、東京より余程気に入っていたようだ。
軽井沢の草庵を訪れた友人の文士も多い。
死の前年の芥川がその軽井沢を去る時、「さようなら、僕の抒情時代」と言っているのが印象的だ。
この信濃の歌は彼の長年の随筆や詩の中から信州に関する作品を集め、戦後間もなく出版された。
私はこの中ではきりぎりすの詩が気に入り、別の本の「虫寺」と言う短編と共に秋の風情を味わっている。
室生犀星と芥川龍之介は会うたびに俳句に興じていたようで、その様子は随筆や書簡に伺える。
(遠野集 初版 室生犀星 黄瀬戸茶碗 古萩皿 江戸時代)
この遠野集は犀星の俳句の集大成で、全句毛筆手書きの豪華句集だ。
芥川との句会で作った句は大抵入っている。
彼はこの遠野集の前に魚眠洞などの俳号で3冊の句集を出すほど俳句にのめり込んでいたが、亡くなった芥川とやった句会の楽しさを生涯忘れなかったようだ。
この中の秋の句で良かったのは
「秋の野に家ひとつありて傾けり」犀星
犀星は詩は勿論の事和歌も少し残しているが、最も数多く詠んだのは俳句だった。
(文藝林泉 初版 室生犀星 李朝小壺 李朝染付虎)
この昭和9年に出た雑文集にも100頁以上を俳句俳諧に割いている。
また亡き友芥川龍之介の遺詩集「澄江堂遺珠」と句集「澄江堂句集」を語っている。
要約すると芥川は詩より俳句の方が良かったと言う話だが、私が見るにその室生犀星も詩より俳句(犀星は発句と呼んでいる)の方が良い。
鎌倉も東京に比べれば避暑避寒の地だが、避暑に関しては信州軽井沢が断然上であろう。
最高の避暑地で詩文三昧の晩生を過ごせる人は、それだけで至福の人生だと思う。
©️甲士三郎