これからの酷暑に備え夏安居(げあんご)中に読むための古書は十分に集めた。
隠者の処暑にまだ足りないのは清涼なる音楽だが、良い音楽を探すには試聴にかなりの時間を掛ける覚悟が要るのだ。
ヴォーカル曲はどんなエンジェルヴォイスであろうとも、極暑の時には煩く聴こえてしまう。
我が荒魂を鎮められるのは自ずと清く澄んだ静謐な器楽の音色に限られる。
(竪琴のサッフォー 銅版画 ギュスターヴモロー 19世紀)
あらゆる楽器の中で最も涼しげな音なのはハープだろう。
以前買った地中海風のハープ曲集が良かったので、似た物を探し今年はヘンデルのハープ協奏曲を買った。
結局熱い季節にはせせらぎの音のように、あまり強過ぎず淡々と流れる音楽が適すようだ。
涼しげなハープの音にモロー作竪琴のサッフォーの絵でも飾れば、古代アルカディアの泉辺やエーゲ海にでも避暑に行った気分だ。
またオルゴールも強弱が付かない涼しげな音色で、しかも今はPCのサンプル音源を使えばピアノの鍵盤で弾けるのでかなり複雑な曲もある。
その中からディズニーとジブリの映画音楽のアルバムを購入。
並の暑さなら好きな楽曲は沢山あるものの、32〜3度以上になるとピアノでも派手な曲は駄目だ。
ピアノの音色は清涼感に加え品位もあるが、隠者好みのショパンでもノクターンなどの静謐な曲以外は真夏には聴けない。
バッハはどちらかと言えば秋冬向けだし、ドビュッシーは涼しげではあるが有名な2〜3の曲以外はやや無機的なアルペジオの繰り返しで好きになれない。
数日かけて探しまくったところ、しばらく忘れていたキース・ジャレットの大病後の近年に出したピアノソロのアルバムが驚くほど良かった。
名作「ケルンコンサート」の頃の凄まじい速弾きは抑えられ、瞑想的で落着いたスピリチュアルな演奏になっている。
これなら猛暑時でも清浄な世界に浸れそうなので、さっそくその3枚のソロコンサートアルバムを確保した。
もう一つ、昔なら軽音楽とかネオクラシックと呼んでいたジャンルで人気のデュオ、シークレットガーデンのフィドルやヴィオラの曲が以外と夏向きだった。
アイルランドのフィドル奏者とノルウェーの作曲家が組んで、素朴なエレジー調の旋律を上手くアレンジした曲が多い。
このジャンルで環境音楽やヒーリングを謳ったアルバムは多数あるが、そのほとんどがすぐ飽きる単調で機械的な物ばかりだ。
それらと比べるとヨーロッパ周辺民族の哀愁を帯びた旋律や、心の籠った音色は長年飽きずに聴ける。
私が9月末までの長い酷暑期を飽きずに過ごすには、このような清涼音楽があと7〜8時間分は必要だ。
しかしネット上の音楽は日本語の検索では良い物はほとんど出て来ないので、英語が苦手な隠者には茨の道だ。
ーーー病み臥すや涼しき楽の音の中にーーー
先月の自分の定期検診の数値が酷い物で少し休養しろと言われたが、家事介護はなかなか休めない。
上の句のようにゆっくりと寝込む事が今の私の夢だ。
©️甲士三郎