ーーー長梅雨の花無き部屋に音楽をーーー
先週から夏の涼しげな音楽を探しているうちに気になったのが、ショパンやラフマニノフのピアノ曲の派手過ぎる部分だ
当時の彼らの主な収入は楽譜の売上げより生演奏会だったので、超絶技巧や大袈裟な強弱を聴衆に見せ付ける必要があったのだろう。
早くも咲き出した桔梗の浄らかな紫には、ピアノでも華麗過ぎる曲は似合わない。
先程言ったように当時は脅威的だった超絶技巧も、PCミュージックが出た今ではどんな速弾きでも驚く人は居ないだろう。
そうなると大袈裟な装飾パートを除いた曲本来のシンプルな主題を、いかに心を込めて歌わせるかが大事になって来る。
それには元々ゆったりしたノクターンなどの瞑想的な曲の方が適しているだろう。
隠者は宿痾で昼の熱い最中は涼しげなハープの音色しか聴けない体になってしまったが、鎌倉の朝晩なら30°以下なので静かななピアノ曲なら聴ける。
私の趣味ではバッハは秋冬向けなので、残る静謐な音楽はロマン派のピアノ曲しか無い。
その中でラフマニノフの良いソロピアノ曲集がようやく出てくれた。
ラフマニノフも派手な曲が有名だが、静かな祈りのような小品はとても良い。
ここでは梔子(くちなし)の高き香りに合わせて、気品ある曲だけを選びたい。
残念ながら邦楽は戦後全く進歩を止めてしまったようで、夏向きの曲もあまり無い。
琴の音色は涼しげで良いのに今だに13弦では音域が狭すぎる。
仕方ないからシンセサイザーの和琴の音色を使い、たまに自分で弾いている。
これなら4〜5オクターブは使え、色々な曲をアレンジ出来るのだ。
中国琴は25弦やそれ以上の物があるので、何とか入手出来ればとも思う。
写真の花は庭に咲いた狐の簪だが真上から見ると何となく中国の古琴の形に似ていて、江南の宮廷音楽が聴こえて来そうな感じだ。
ロマン派ピアノの最後の一人はシューマンだ。
彼のシンフォニックスタディーやファンタジー辺りでもう夏向きの曲は終わりだ。
真のロマン派と言える作曲家はごく少ない。
「浪漫主義とは古典派の修練を積んだ者の中から、数少ない神々の恩寵を受けた者だけがなし得る奇跡の業だ。」
ラフカディオ・ハーンの東大講義録自解。
ーーー窓洗ふ虹色の泡梅雨明けりーーー
©️甲士三郎