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第二十一夜 怪談 真っ黒な影人間

2010-07-20 12:11:02 | 不思議夜話
 ジメジメした梅雨も明けて、一気に夏の真っ盛り―― 。


 暑い日々が続きます、熱中症に気をつけましょう、と言うことで、今年のそろそろ怪談話を始めようかと存じます。


 これは兄貴の会社の同僚二人が体験した話。


 とある案件で、件の同僚たち(A氏とB氏と呼ぶ)が、九州の支社工場へ赴くことになった。二人の出張は短期間の2泊3日ものだった。
 宿泊先は、支社工場の寮へ泊まることになった。その寮は以前、某大学の寮だったのだものを、買い受けて会社の寮にしたのだ。


 その日の仕事も無事に終えて、寮の部屋に帰ってきたのだが、A氏は近くの街へ飲みに行こうとB氏を誘う。


 「俺、飲めないし、ちょうっと疲れたから、先に寝る」


 A氏は、仕方なく一人で飲みに行くことにした。


 寮は、以前大学の寮と言うこともあって、街からかなり離れた山の中腹にあり、街へ出るには車が必要となる。
 そこでA氏はタクシーを呼んで街へと出かけて行く。


 B氏は、寝床でスタンドの明りだけにして本を読んでいたのだが、日中の疲れからか、そのまま寝てしまった。
 それからしばらくすると、A氏は部屋の中の物音で目を覚ます。――Aの奴が帰ってきたんだな―― そう思ったB氏は、静かにするようにと言おうとした途端、金縛りに遭っていた。


 身体がまったく動かせない、声も出せない状態だ。それでも部屋にいるA氏に必死に助けを呼ぼうとするが―― 


 「Aじゃない!?」


 スタンドの明りに照らされたA氏と思っていた人物は真っ黒な影だった。いくら部屋を暗くしているからとはいえ、スタンドの明りは点いている。ある程度の明るさが部屋の中にあるにもかかわらず、その人物は真っ黒だった。


 「あ……っ、あ…… 」


 必死に声を出そうとするが、声がでない。すると真っ黒な人物が自分の寝ている布団の周りをぐるぐると回り始めた。


 ずっず、ずっずず、ずずずずーー


 畳の上をすり足で歩くような音がした。布団の周りを回りながら近づいてくるのだ。やがて、自分の身体の真上にくると(不思議と重さは感じなかったそうだ)、ふっと、立ち止まり、ぐっと身体を曲げてA氏の顔を覗き込んだ。


 真っ黒な顔で鼻も口もない、ただ二つの血走った目だけが、大きく見開いていた―― 。


 「わああああぁぁぁっ!!」


 その時、やっと大きな声が出た。


 一方、B氏は、街の飲み屋で飲んでいたのだが、一人の飲む酒は味気なく、早々に切り上げて寮へ帰ってきていた。
 そして、自分たちの部屋へ入ろうとした瞬間、部屋の中からB氏の大きな叫び声を聞いたのだった。


 「何事か!?」


 慌てて部屋のドアを開けようとする―― 、その途端、勢いよくドアがひとりでに開き、自分を押しのけるように黒い影が、猛烈な速さで脇をすり抜けて行ったそうである。それは真っ黒な影だった。
 初めA氏は、B氏が飛び出してきたかと思ったのだが、そのB氏は部屋の中で呆けたように寝床に座っていた。


 その後、二人で事の次第を話し合ったのだが、その黒い影が何だったのか、結局分からずじまいだった。ただ二人とも次の日は、会社に事情を話し、違う部屋へ変えてもらったそうである。


  会社の人間、曰く。


 「やっぱり…… 出てか…… 」


 そんな不思議な話でした。




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