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裁判所構成法 を読む 第1編 裁判所及檢事局  第1章 總則

2023年09月23日 | 治罪法・裁判所構成法
公布:明治23年2月10日
施行:明治23年11月1日(上諭)

第1編 裁判所及檢事局
第1章 總則
#裁判所構成法 第1条〜第10条 
第1条 左ノ裁判所ヲ通常裁判所トス
第一 區裁判所
第二 地方裁判所
第三 控訴院
第四 大審院
(コメント)
裁判所構成法は1890(明治23)年2月10日公布、同年11月1日施行。裁判所百年史という本が最高裁判所事務総局 編から1990年に出版されています、が、その起点はこの裁判所構成法にあります(裁判所構成法前にも裁判所はあったはずですが)。
裁判所構成法1条は四種類の通常裁判所を規定しています。現代に置き換えるとこのような感じでしょうか。
一 區裁判所⇒簡易裁判所
二 地方裁判所⇒地方裁判所
三 控訴院⇒高等裁判所
四 大審院⇒最高裁判所
法施行時の裁判所数は、大審院1、控訴院7、地方裁判所48、区裁判所300でした。

#裁判所構成法
第2条 通常裁判所ニ於テハ民事刑事ヲ裁判スルモノトス。但シ、法律ヲ以テ特別裁判所ノ管轄ニ屬セシメタルモノハ此ノ限ニ在ラス。
(コメント)
・「通常裁判所」と「特別裁判所」が対置されていることがわかる条文。特別裁判所の管轄にしたものは、通常裁判所では裁判できないという規定。明治憲法第60条「特別裁判所ノ管轄ニ属スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム」と軌を一にしています。なお、現行憲法では特別裁判所は設置できません(憲法76条)。
・通常裁判所は「民事刑事」を裁判することはできますが、行政事件は対象から外れています。行政事件は司法裁判所の対象外となり、行政裁判所の管轄となっていました(行政裁判法)。

#裁判所構成法
第3条 地方裁判所、控訴院及ビ大審院ヲ合議裁判所トシ、數人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ總テノ事件ヲ審問裁判ス。但シ訴訟法又ハ特別法ニ別段規定シタルモノハ此ノ限ニ在ラス。
(コメント)
地方裁判所、控訴院、大審院は原則合議裁判所であり、法律で例外を設けた場合は判事単独で裁判ができるという規定。ここには区裁判所は入っていないので、区裁判所では判事単独での裁判ということですね。

#裁判所構成法
第4条 裁判所ノ設立、廢止及管轄區域竝ニ其ノ變更ハ、法律ヲ以テ之ヲ定ム。
(コメント)
裁判所の設立、廃止、管轄区域、その変更は法律事項であるという規定。
裁判所法2条2項(現行)
「下級裁判所の設立、廃止及び管轄区域は、別に法律でこれを定める。」

#裁判所構成法
第5条 各裁判所ニ相應ナル員數ノ判事ヲ置ク。
(コメント)
各裁判所の判事の員数は「相応」なので、人数は決められていなかったということですね(大審院も)。現行では地裁、高裁は同様の規定がありますが、最高裁判所判事は員数が決められています。「相応な員数」という文言は裁判所法にも引き継がれています。
現行法(裁判所法)の規定は次のようなものです。
第十五条(構成) 各高等裁判所は、高等裁判所長官及び相応な員数の判事でこれを構成する。
第二十三条(構成) 各地方裁判所は、相応な員数の判事及び判事補でこれを構成する。

#裁判所構成法
第6条1項 各裁判所ニ檢事局ヲ附置ス。檢事ハ刑事ニ付公訴ヲ起シ、其ノ取扱上必要ナル手續ヲ爲シ、法律ノ正當ナル適用ヲ請求シ及び判決ノ適當ニ執行セラルルヤヲ監視シ、又民事ニ於テモ必要ナリト認ムルトキハ通知ヲ求メ其ノ意見ヲ述フルコトヲ得。又裁判所ニ屬シ若ハ之ニ關ル司法及行政事件ニ付公益ノ代表者トシテ法律上其ノ職權ニ屬スル監督事務ヲ行フ。
(コメント)
・現行法では、検察庁は法務省の外局ですが、裁判所構成法では、「検事局」という名称で裁判所に付置されています。
・検事の権限。刑事に関しては、公訴を提起し訴訟行為を行い、法律の正当な適用を請求し、判決が適切に執行されるか監視する。民事に関しては、報告要求権、意見陳述権を有していました。さらに公益の代表者として裁判所を監督するものとされています。
・刑事に関しては現在と比べてもそれほどの違いはないですが、民事や裁判所監督事務については随分違います。フランス法と同様検事に大きな役割を持たせています。

#裁判所構成法
第6条(続き)
2 檢事ハ裁判所ニ對シ獨立シテ其ノ事務ヲ行フ
3 檢事局ノ管轄區域ハ其ノ附置セラレタル裁判所ノ管轄區域ニ同シ
(コメント)
検事は裁判所に付置されますが、裁判所から独立して権限を行使します(2項)。検事局の管轄区域は裁判所の管轄区域と同一です(3項)。

#裁判所構成法
第6条(続き)
4 若一人ノ檢事若ハ數人ノ檢事悉ク差支アリテ、或ル事件ヲ取扱フコトヲ得サルトキハ、裁判所長又ハ區裁判所ニ於テ、判事若ハ監督判事ハ、其ノ事件猶豫スヘカラサルニ於テハ、判事ニ檢事ノ代理ヲ命シ其ノ事件ヲ取扱ハシムルコトヲ得。
(コメント)
判事が検事の代理ができるとする規定。まだ検事の人数が少なかったからでしょうか。

#裁判所構成法
第7条 檢事局ニ相應ナル員數ノ檢事ヲ置ク。
(コメント)
検事局にも「相応なる員数」の検事を置くという規定。裁判所と同様、検事局の人数も法律では規定していません。

#裁判所構成法
第8条 各裁判所ニ書記課ヲ設ク。書記課ハ往復會計記録、其ノ他此ノ法律又ハ他ノ法律ニ特定シタル事務ヲ取扱フ。
2 裁判所ニ附置セラレタル檢事局ニ於テ、前項ノ如キ事務ヲ取扱フ爲、必要ナリト認メタルトキニ限リ別ニ、書記課ヲ設クルコトヲ得。但シ合議裁判所ノ檢事局ニ限ル。→
→3 司法大臣ハ裁判所ノ會計事務ヲ専任スル爲、特別官吏ヲ裁判所ニ置クコトヲ得。
(コメント)
「書記課」についての規定。現行法では、「書記官」について定めていますが、書記官とは明らかに別物です。書記官は、裁判所の事件に関する記録を主な職務としていますが、書記課は「往復会計記録」等の事務を行うとされています。

#裁判所構成法
第9条 區裁判所ニ執達吏ヲ置ク。執達吏ハ、裁判所ヨリ發スル文書ヲ送達シ及び裁判所ノ裁判ヲ執行ス。
2 前項ノ外、執達吏ハ此ノ法律又ハ他ノ法律ニ定メタル特別ノ職務ヲ行フ。
(コメント)
執達吏に関する規定。執達吏ノ職務は送達及び執行他であり、区裁判所に置かれていた。現行法では「執行官」。地方裁判所に所属する裁判所職員で、裁判の執行などの事務を行い、送達事務は扱わない(裁判所法第62条、執行官法第1条)。

#裁判所構成法
第10条 法律ヲ以テ特定シタルモノヲ除ク外、左ノ場合ニ於テ適當ノ申請アルトキハ、關係アル各裁判所ヲ併セテ之ヲ管轄スル。直近上級ノ裁判所ハ、何レノ裁判所ニ於テ本件ヲ裁判スルノ權アルヤヲ裁判ス。
第一 權限アル裁判所ニ於テ、法律上ノ理由若ハ特別ノ事情ニ因リ、裁判權ヲ行フコトヲ得ス且此ノ法律第十三條ニ依リ、之ニ代ルヘキコトヲ定メラレタル裁判所モ亦之ヲ行フコトヲ得サルトキ。
第二 裁判所管轄區域ノ境界明確ナラサルカ爲、其ノ權限ニ付疑ヲ生シタルトキ。
第三 法律ニ從ヒ又ハ二以上ノ確定判決ニ因リ、二以上ノ裁判所裁判權ヲ互有スルトキ。
第四 二以上ノ裁判所權限ヲ有セストノ確定判決ヲ爲シ、又ハ權限ヲ有セストノ確定判決ヲ受ケタルモ其ノ裁判所ノ一ニ於テ裁判權ヲ行フヘキトキ。
(コメント)
管轄に関する規定。管轄の問題は実務では時にシビアな問題を生じるが、そうでないと面白いとはいえないので、これ以上のコメントは省略。



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