モーツァルト:レクイエム
指揮:カール・ベーム
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
独唱:エディット・マティス(ソプラノ)
ユリア・ハマリ(アルト)
ヴィエスワフ・オフマン(テノール)
カール・リーダーブッシュ(バス)
合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ
合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
オルガン:ハンス・ハーゼルベッダ
録音:1971年4月14日、ウィーン、ムジークフェライン大ホール
LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MG 2299
このLPレコードでモーツァルト:レクイエムを指揮しているカール・ベーム(1894年―1981年)は、オーストリア生まれ。グラーツ大学で法律を学んだという、指揮者としては珍しい経歴を持っている。1934年~43年ドレスデン国立歌劇場総監督、そして1943年~45年と1954年~1956年ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務め、文字通り世界の指揮界の頂点を極めた指揮者の一人である。その後は、自由の立場で世界各地の歌劇場や管弦楽団を指揮し、日本へも1963年、75年、77年、80年に来日していることもあり、日本においてのカール・ベームの人気には当時絶大なものがあった。モーツァルトは、この「レクイエム」を自らの筆で完成させることができず、弟子のフランツ・サヴァー・ジュスマイヤーの補完によって、現在演奏される形を整えたことは、よく知られていることである。つまりモーツァルトの直筆は「ラクリモーサ」までなのである。だからといって、この作品の価値は少しも損なわれることはない。その理由は、ジュスマイヤーが病床のモーツァルトから作品の完成について指示を受けていたという事実があることが挙げられる。そして、ジュスマイヤーがモーツァルトからスケッチを手渡されたという話も伝わっている。実際に完成した「レクイエム」を聴いてみると、どこまでがモーツァルトの直筆で、どこからが弟子のジュスマイヤーの作品なのかは判然としない。逆に言えば、それだけモーツァルトの指示が、完成した作品に十二分に反映されているということを意味するわけである。このLPにおいてベームは、このモーツァルト:レクイエムを、単に激情に溺れることなく、ゆっくりと一つ一つの音を確かめるかのように丁寧に指揮する。あくまで客観的に、しかも、大きなスケールの演奏を聴かせるのである。その結果、モーツァルト:レクイエムの持つ優美さと厳粛な側面を、リスナーに強烈に印象づけることに、ものの見事に成功している。独唱陣と合唱陣も、そんなベームの指揮に歩調を合わせるかのように、清楚できりりと締まった雰囲気を醸し出している。スイス出身のソプラノ歌手のエディット・マティスをはじめとした独唱陣と合唱団の美しい声の調和も聴きどころだ。このLPレコードは、私がこれまで聴いたモーツァルト:レクイエムの中で一番心に沁みる演奏であり、こんなにも美しいモーツァルト:レクイエムの演奏の録音は、正に空前絶後といっても間違いではなかろう。(LPC)
指揮:カール・ベーム
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
独唱:エディット・マティス(ソプラノ)
ユリア・ハマリ(アルト)
ヴィエスワフ・オフマン(テノール)
カール・リーダーブッシュ(バス)
合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ
合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
オルガン:ハンス・ハーゼルベッダ
録音:1971年4月14日、ウィーン、ムジークフェライン大ホール
LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MG 2299
このLPレコードでモーツァルト:レクイエムを指揮しているカール・ベーム(1894年―1981年)は、オーストリア生まれ。グラーツ大学で法律を学んだという、指揮者としては珍しい経歴を持っている。1934年~43年ドレスデン国立歌劇場総監督、そして1943年~45年と1954年~1956年ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務め、文字通り世界の指揮界の頂点を極めた指揮者の一人である。その後は、自由の立場で世界各地の歌劇場や管弦楽団を指揮し、日本へも1963年、75年、77年、80年に来日していることもあり、日本においてのカール・ベームの人気には当時絶大なものがあった。モーツァルトは、この「レクイエム」を自らの筆で完成させることができず、弟子のフランツ・サヴァー・ジュスマイヤーの補完によって、現在演奏される形を整えたことは、よく知られていることである。つまりモーツァルトの直筆は「ラクリモーサ」までなのである。だからといって、この作品の価値は少しも損なわれることはない。その理由は、ジュスマイヤーが病床のモーツァルトから作品の完成について指示を受けていたという事実があることが挙げられる。そして、ジュスマイヤーがモーツァルトからスケッチを手渡されたという話も伝わっている。実際に完成した「レクイエム」を聴いてみると、どこまでがモーツァルトの直筆で、どこからが弟子のジュスマイヤーの作品なのかは判然としない。逆に言えば、それだけモーツァルトの指示が、完成した作品に十二分に反映されているということを意味するわけである。このLPにおいてベームは、このモーツァルト:レクイエムを、単に激情に溺れることなく、ゆっくりと一つ一つの音を確かめるかのように丁寧に指揮する。あくまで客観的に、しかも、大きなスケールの演奏を聴かせるのである。その結果、モーツァルト:レクイエムの持つ優美さと厳粛な側面を、リスナーに強烈に印象づけることに、ものの見事に成功している。独唱陣と合唱陣も、そんなベームの指揮に歩調を合わせるかのように、清楚できりりと締まった雰囲気を醸し出している。スイス出身のソプラノ歌手のエディット・マティスをはじめとした独唱陣と合唱団の美しい声の調和も聴きどころだ。このLPレコードは、私がこれまで聴いたモーツァルト:レクイエムの中で一番心に沁みる演奏であり、こんなにも美しいモーツァルト:レクイエムの演奏の録音は、正に空前絶後といっても間違いではなかろう。(LPC)