パガニーニ(ヴィルヘルミ編):ヴァイオリン協奏曲第1番(第1楽章)
シューマン(クライスラー編):幻想曲(ヴァイオリンと管弦楽のための)
クプコヴィチ:「狂詩曲」より「思い出」
ヴァイオリン:ギドン・クレメール
指揮:ハインツ・ワルベルク
管弦楽:ウィーン交響楽団
発売:1979年
LP:キングレコード K15C-9115
パガニーニ(1782年―1840年)は、イタリアのジェノヴァ生まれで、7歳の時にヴァイオリンを手にしたが、その1年後には協奏曲を演奏し、ソナタも作曲したという。異様な風采と悪魔のようなヴィルトオーゾ的演奏は、行く先々でセンセーションを巻き起こしたようである。そのような演奏家が作曲をしたらどうなるのか。天才的閃きが込められた作品になるのと同時に、どこかおさまりの悪さを残してしまうのが常。1811年に完成したパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番は、そんな作品だった。そこで、この曲の編曲が試みられるが、その中の1曲が、このLPレコードに収録されている、名ヴァイオリニストであったアウグスト・ヴィルヘルミの手により、1883年に完成した編曲作品だ。第2楽章と第3楽章を削除し、第1楽章だけを採用し、ヴァイオリンのパートにはあまり手を付けず、主に管弦楽のパートを重厚に書き換えた。完成したこの編曲は、重厚なヴァイオリン協奏曲へと変身を遂げた。このため、軽快な如何にもパガニーニ的な要素を求めるリスナーにとっては、少々戸惑うことは避けられない。このLPレコードでヴァイオリンの独奏をしているのが、お馴染みのラトビア出身のギドン・クレーメル(1947年生まれ )だ。ギドン・クレーメルは、モスクワ音楽院へ進学し、この間、1967年「エリザベート王妃国際音楽コンクール」3位、1969年「パガニーニ国際コンクール」優勝、さらに1970年モスクワで開かれた「チャイコフスキー国際コンクール」でも優勝という快挙を成し遂げた。1980年にはドイツに移住し、以後はドイツを活動拠点に世界的な演奏活動を展開している。このLPレコードでの演奏は、完璧なテクニックの冴えを存分に発揮しており、パガニーニの華麗な世界をリスナーに思う存分披露する。ただ、この編曲は、オーケストラのパートを重厚に書き直したたため、オーケストラの音が前面に出て、技巧的なヴァイオリンの音を期待する向きには不満も残ろう。B面に収められたシューマン(クライスラー編):幻想曲(ヴァイオリンと管弦楽のための)は、シューマンとヴァイオリンの名手ヨーゼフ・ヨアヒムとの交友関係から1853年に書かれた作品。シューマンのヴァイオリン協奏曲を評価しなかったヨアヒムも、この曲は評価したという。ただ、この頃シューマンは精神的障害を発症しており、この欠点を名ヴァイオリニストのクライスラーが1936年に編曲し、補った。ギドン・クレーメルの演奏は、パガニーニの時と同様、技術的な完璧さを見せ、全体の構成力も申し分なく仕上がっている。(LPC)