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傷の記憶が抹消されていく流れに、もっとささやかなレベルでだが抵抗し、景観を聖別・選別しようとする動きを描いた作品がある。天童荒太作『包帯クラブ』である。…傷ついた人からの相談をネットで募って、傷ついた場所に包帯を巻きに行き、〈手当された風景〉をデジタルカメラで撮影し、相手のアドレスに送るという活動を始めるのだ。
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彼女たちは包帯を巻くことで、すべての傷を癒せるわけではないことを知っている。
「巻けます、効きます。人によります。」
…
いろんな傷がある。傷つけられた傷だけでなく、傷つけてしまった傷、友人が傷つけているのに気づかず追いつめてしまった傷、傍観者としてなにもできずに見ているしかなかった傷など…