「別離ののち」2. 2023-01-13 22:51:00 | 三好達治抄 p101その後、前橋の父の行事で、三好さんと叔母は二度あった。…一汽車遅れた三好さんは羽織袴で会場に着くと叔母と意識して顔を合わさないようにしているようでもなく、自然であった。二、三年経った時のことである。何の脈絡もない話の合間に、独り言のように、「随分おばあさんになった」と、つぶやいた。
「別離ののち」 2023-01-12 20:53:00 | 三好達治抄 p88薄暗い部屋に伊万里焼の皿や銚子、杯のありたけをいっぱいに並べてあって、伊万里の派手な色合いが怪しく呼吸づいているのだった。三好さんは、その前に寝衣のままじっと座っていた。小野さんは思わず息を呑んでしまったが、さらに驚くべきことは、陶器の裾の方に派手な長襦袢や着物が、人の形に並べてあったからである。…焼物と長襦袢とて綴った慶子の寝姿に他ならなかったのだ。
「脱出」3. 2023-01-11 14:29:00 | 三好達治抄 p75…三好がそんなのとをするとは信じられないと、言う。私がよほどひどい口応えをした故か、それとも根本に何かのわだかまりがあるための暴力だろうという。p77三好は私の顔の疵が早く全快するようにと、あらゆる手段を尽くしてくれたり、人が変わったように優しくなったが、…
「脱出」2. 2023-01-10 17:18:00 | 三好達治抄 p73ーー…あなたと別れたいのです!こんな生活はもう一日も続けているのが厭です!言い終わらないうちに、私は三好に髪の毛を引っ張られて、二階から引き摺り下ろされていた。そして荷物のように足蹴にされたり、踏まれたりした。…血まみれになって雪の夜道を、警察まで夢中で逃げ込んだ。雪の上に真っ赤な血痕がぽた、ぽた落ちるのが夜目にも見えたところまで、記憶していた。
「脱出」1. 2023-01-09 16:44:00 | 三好達治抄 p71ーー家に来ていつもあなたのことを愛してるけど、どうにもならないのだと泣いています。愛すればこその暴力ですもの、あの人は自分の愛の表現がもどかしいんで、つい手がでるんです。不器用なんですね。ーー愛情の代わりに手が出るなんて私にはどうしても理解できませんわ。もう1日も三好のそばにいるのが厭です。なんとかしてください!